11月4日投開票のニューヨーク市長選挙まで1週間となった。民主党選出のニューヨーク州下院議員、ゾーラン・マムダニ氏(34)が支持率では大幅リードし、無所属の前ニューヨーク州知事、アンドリュー・クオモ氏(67)が追い上げる情勢。マムダニ氏が当選すれば、アメリカで初の「民主社会主義」を唱える大都市市長が誕生する。一方で、全米のビリオネアがマムダニ氏の当選を阻止するため、総額約2200万ドル(約34億円)をクオモ陣営などに寄付する事態に及んでいる(フォーブス誌調べ)。市長選は、労働者階級VS富裕層の代替戦となっており、過去にない緊張を高めている。

「ビル・アックマン(ヘッジファンドCEO)らは、私たちが脅威だと言って、数百万ドルを寄付している。私は認めよう。彼らの言う通りだ」
マムダニ氏は26日の「New York is Not for Sale(ニューヨークは売り物ではない)」選挙集会スピーチで言及。富裕層に対立し、労働者層を代表する姿勢を強調した。
上院で唯一の無所属で「民主社会主義者」を自称するバーニー・サンダース議員も集会に駆けつけ、票が「買われている」ことに警鐘を鳴らした。
「民主主義では、投票は市民の権利であるのに、クオモ支持者のビリオネアらは巨額を投じてその権利を有権者から奪っている」
フォーブス誌によると、マムダニ氏を敗北させるために寄付しているビリオネアは、マイク・ブルームバーグ元ニューヨーク市長、化粧品大手、エスティ・ローダーの後継者ロナルド・ローダー氏など。彼らの寄付金は、テレビやラジオの「反マムダニ」CMやメール・電話作戦に使われているという。
市長という地方自治体首長選挙であるにもかかわらず、トランプ大統領も異様な関心を示している。右派ポピュリズムの旗手となったトランプ氏が、反する左派急進派のマムダニ氏を警戒し、ニューヨーク市に対する180億ドルの連邦資金を凍結するという異例の大統領令まで発している。
一方、複数の女性職員らによるセクハラ告発で州知事を辞任したクオモ氏は、富裕層への増税を訴えるマムダニ氏への警戒からエスタブリッシュメント(支配層)の強力な支援を得ている。

最新の世論調査によると、マムダニ氏の支持率は44%、クオモ氏は34%、共和党選出のカーティス・スリワ氏は11%(サフォーク大学調べ)。マムダニ氏とクオモ氏の差は以前に比べると、縮小している。
マムダニ氏の人気は高く、26日の集会には1万5000人と市長選挙集会では過去になかった支持者が殺到。サンダース上院議員の他、アレクサンドリア・オカシオ-コルテス下院議員、キャシー・ホークル・ニューヨーク州知事も加わった。若い人が圧倒的に多く、マムダニ氏が演説で「アパート家賃(レントステビライズト)の据え置き」「大学の学費の無料化」などにふれると、「プリーズ!」と悲鳴が上がった。
しかし、マムダニ氏が訴える家賃据え置き、バス運賃の無料化、安いスーパーマッケットの設置などが真に実現するかどうかは極めて不透明だ。市政は巨額の赤字を抱えている。「絵空事」に終わらない辣腕が必要とされている。
取材・文/津山恵子
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