2025年10月16日 NEWS DAILY CONTENTS

NY市で最低時給が30ドルに? 賛否両論、生活は楽になっても雇用が失われる可能性

来月4日に迫ったニューヨーク市長選挙の争点の一つに最低賃金(時給)の引き上げがある。民主党の最有力候補、ゾーラン・マムダニ州議会議員は、2030年までに最低賃金をこれまでのほぼ2倍となる30ドルに引き上げることを提案。実現すれば、何千人もの人々に高収入をもたらす可能性がある一方で、一部の経済学者は、一部の職種の消滅を早める可能性を指摘している。地元ニュースサイトのゴッサミストが14日、伝えた。


マムダニ氏はまた、市内に約8万人と推定されるデリバリー労働者を保護する規制の強化を公約にしている。写真はイメージ(photo: Unsplash / Brett Jordan)

無所属で立候補している元ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモ氏(民主)も最低賃金引き上げについて独自の計画をもつ。クオモ氏のキャンペーン・ウェブサイトによると、現在の16.50ドルから27年までに 20ドルに引き上げ、80万人ものニューヨーカーに恩恵をもたらすとしている。アメリカ全体の最低賃金は09年以来、7.25ドルで据え置かれている。

最低賃金30ドルを巡る議論

賛成派

過去に市の経済開発担当チーフエコノミストを務め、ニュースクール大学ニューヨーク市問題研究センターの上級研究員兼上級顧問であるジェームズ・パロット氏は、市における富裕層の賃金は近年急上昇した一方で、低所得層の賃金は停滞していると指摘。同氏が10月に発表した報告書によれば、全米10大都市の中で、2019年から24年にかけて実質中位所得が統計的に有意な減少を示したのはニューヨーク市のみだった。しかし、パロット氏は、州の最低賃金がほぼ倍増して15ドルに達した過去10年間で、ニューヨーク市の低賃金労働者は繁栄したとも指摘。「所得分布の下位50%の人々の実質所得は、1960年代以降で最も大きく上昇した」と述べている。

懐疑~反対派

政策専門家は、最低賃金の引き上げは所得格差の縮小や都市の生活費負担軽減など広範な影響をもたらす可能性があると指摘する一方で、一部の雇用主への打撃や自動化の加速を懸念している。

ニューヨーク市内とニュージャージー州に8店舗を展開するコーヒーチェーン、モカフェのオーナー、ユセフ・ムバレズさんのようなマムダニ氏の熱心な支持者も、大幅な最低賃金引き上げに懸念を示す一人だ。「週800ドルや1000ドルでは、今の時代、かろうじて生活できる程度だ」と認めながらも、多くの中小企業経営者にとって「特に最近の物価上昇を考慮すると、30ドルという最低賃金は高すぎて負担できないかもしれない」とムバレズさん。

ニューヨーク市政策センターの経済・財政政策部長ローレン・メロディア氏は、最低時給30ドルの影響を判断するにはさらなる研究が必要だと慎重だ。中小企業が密集するニューヨークで、最低賃金を引き上げた結果、〇件の雇用が失われるなら、『それだけの価値があったのか?』という疑問が生じる」とメロディア氏。

より批判的なのは、保守系シンクタンク、マンハッタン研究所の法律政策フェロー兼都市部門ディレクターのジョン・ケッチャム氏。「AIがほぼ全ての企業において低コストで大規模に利用可能となっている現状から考えれば、より多くの企業が自動化を進めるようになる」と指摘。ファストフード店でセルフチェックアウトが主流となったように「最低賃金を倍増させれば、企業は人を機械に置き換えることを選ぶだけだ」と述べた。良質な中流階級の雇用創出を促進するために市長ができることは、(最低時給を引き上げるよりも)「住宅を大幅に増やすこと」を提案、新たな住宅供給は公的部門ではなく民間セクターから行うべきだと付け加えた。

最低賃金の引き上げには、州議会の承認が必要となる。

                       
合わせて読みたい記事
RELATED POST