第37回 SNOWDONIA

料理と映画と共同パートナーたちの素敵な生きざま

マンハッタンから出掛ける価値あり!

いつも「なりたい自分」を見失わずボジティブなシェフのウィリアム・ルボルド氏 店名はウェールズの山の名前から、ロッジ風の店内には昔のスキーも

 ドアを空けた瞬間、「あぁ…この店は間違いない」そう思うことが確かにある。初めて訪れた店なのに、まるで帰って来たかのような懐かしさや旨いものを食べさせてくれそうな予感──昨年9月、クイーンズ区アストリアにオープンした「SNOWDONIA」は、まさにそんな店だ。

 本音で生き、真剣に遊び、人生の楽しさも苦さも知り尽くしてきた大人の男たちが共同パートナーというだけあり、「この店カッコイイでしょ?」というこれ見よがしなところが全くなく、それでいてセンスの良さやこだわりをそこここに感じる、肩の力の抜けた洒落た空間が心地良い。
 そして、パートナーのひとりであるペンシルベニア出身のシェフ ウィリアム・ルボルド氏の作る料理、これがまたただものではない。なんと彼はつい8年ほど前までは、出版業界に身を置いていた。「人生、コレでいいのだろうか」と一度きりの人生について考え続けていた同氏は、ニューヨークへと移り住み、料理学校に通い始めた──2006年のことである。30代からの遅い出発ではあったが、有名イタリアンレストラン「エノテカ」でシェフと呼ばれるまでになるも、自分自身の熱い想いを生かした料理を作り続ける道を選び、独立した。

 日本の食材に魅せられたという同氏の料理には、妻が日本人だということだけではなく、彼ならではの繊細な視点と鋭い感覚が生かされ、思わず「出版の仕事を辞めてくれて…ありがとう」と心から拍手を贈りたくなってしまう独創性にあふれている。「だからと言って、日本の食材をなんでも取り入れるのは失礼だと思っている。良さや使い方をよく理解し、それがもっとも生かせる時だけ『使わせていただく』という気持ち」なのだと語る同氏の真摯なスタイルも、たまらない。

豚バラ肉、しそ、日本の漬物味のピクルスは完璧なコンビネーション「Pork Belly Sliders」(8ドル)

 その上、料理に合わせて選べるこだわりのビールのラインアップは、常時50種類。料理の隠し味や下ごしらえにも、ビールが効果的に使われている。

オイスターとオイスターマッシュルームのかき揚げ「Oysters and Oysters」(8ドル)

一度スモークしてから揚げてあるので薫りもよく、軽くていくらでも食べられてしまう「Smoked Wings」(8ドル)

 興味深いことに、同店のパートナーのひとりは大学で映画学を教える教授で、厳選された上質な映画が店内にはいつも流れている。気の合った仲間とテーブル席で賑やかに楽しむのもいいが、ひとりでふらりと訪れてカウンターに座り、映画を眺めながら隣の人との会話を楽しむという過ごし方もここでは「あり」だ。
 若者の遊び場というよりも、まさに大人の隠れ家──マンハッタン区からサブウェイに乗って出掛ける価値は、充分にある。

*料理はいずれも、前菜「Starters」の中からのおすすめ BEST3。ほかにも、主菜「Mains」(14~16ドル)やその日限定の特別メニューなど、充実。

SNOWDONIA
34-55 32nd St, Astoria, Queens
☎347-730-5783
www.snowdoniapub.com

■営業時間
ディナー/日~木曜  4pm~1am
金・土曜  4pm~2am
ブランチ/土~月曜 12pm~4pm

地下鉄NまたはQ線の「36th Ave」で下車、徒歩約3分
マンハッタン区からわずか20分!