大竹彩子(焼酎&タパス 彩) 焼酎ソムリエの「つまみになる話」毎月第4月曜号掲載 第五回 どげんね!うまかろう、「吾空」


 今回はご飯もお酒も美味しい福岡からの麦焼酎「吾空」のお話です。文政の時代から創業約200年を誇る日本酒の蔵として有名な(株)喜多屋が製造元。近年までJAL国際線のエグゼクティブクラスで提供、販売されていた焼酎としても有名です。特徴は何と言っても樫樽で長期貯蔵されていることで、少し黄色身がかった黄金のような色をしていて、樽から味と香りが移り、まるでウイスキーのような独特な味がします。樫樽と聞いても一見ピンとこないかもしれませんが、西洋でウイスキーやブランデーを入れて熟成させているのがこれらの木製の樽です。焼酎は蒸留後1年程度のタンク貯蔵で無色透明のものが一般的ですが、最近ではこちらを使って長期貯蔵の焼酎を造る蔵もずいぶん増えました。特に「吾空」はかの有名なテネシー州のウイスキー、ジャック・ダニエルとケンタッキー州のジム・ビームの樫樽を使用しています。内側を焼いたオーク樽を使用することによって甘味のあるバニラのような香りになるのが特徴で、麦の甘味と相まって上品で高貴な樽貯蔵の麦焼酎に仕上がるそう。気になる貯蔵期間は4年以上です。
 そんな「吾空」が生まれたのは2001年。現社長である7代目木下宏太郎氏が社長に就任して数年経ったころでした。蔵元である木下氏はかねてから祖父より受け継がれてきた、洋画家坂本繁二郎による「空(くう)」という書を眺めながら自身の造りたい焼酎を思い描いてきました。そこから初めてできた長期貯蔵の麦焼酎が「空」シリーズの一作品目となる樫樽と甕貯蔵など、繊細なブレンドで造り上げた「是空」です。この焼酎はすぐに人気商品となり、方々から「弟分となる焼酎が欲しい」と言われます。そこで樫樽貯蔵のみを使用しできあがったのが、今回の主役「吾空」です。長期貯蔵にこだわった同蔵は既存の原酒を使うのではなく、「吾空」のために一から新しい長期貯蔵の原酒を造ったため、商品化に実に5年を有しました。
 なぜ新酒で飲まれる焼酎が一般的な中、長期貯蔵にこだわったのか。木下社長は間髪も入れず「世界で評価される焼酎を造りたかった」とおっしゃいました。その当時から同県や九州内に数多くあった焼酎がライバルではなく、世界のウイスキーやブランデーがライバルだったのです。また、こちらの蔵は昭和40年代までは、全国すべての焼酎の蒸留法が常圧蒸留だったのに対して、香りを軽くし、飲みやすさを出せる減圧蒸留法を開発したことでも有名です。今では多くの蔵で取り入れられており、焼酎ブームの立役者になったと言っても過言ではありません。言わば減圧蒸留のパイオニアなのです。その技術は「吾空」にも生かされています(吾空は常圧蒸留が主だが、隠し味として減圧蒸留も使用)。
 「主人、自ら酒を造るべし」という代々受け継がれている家訓のもと、今も社長自らが先頭に立って酒造りをしている蔵、喜多屋が誇る「吾空」。その味に宿る熱意を感じていただきたい。

本日の〆
(株)喜多屋からのメッセージ
喜多屋の強みは技術力です。そして弊社の商品で吾空ほど海外の方に評価されている焼酎は無いと感じています。「上質のウイスキーにも劣らない洗練された味わい」という評価を受けた時は、吾空がウイスキーに対抗でき、米国人に理解してもらえていると世界展開への光明が見えた気持ちになりました。吾空は世界で戦える日本代表の焼酎です。吾空が、大リーグに挑戦した野茂投手のように、世界でも通用するハードリカーとして認知されること。これが吾空がわれわれに期待していることだと感じています。


大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com