滝川玲子弁護士の“遺言や財産について、今から知っておこう。賢く、遺産相続” Vol.10 ニューヨーク州の遺産税 (New York State Estate Tax)について

 故人が所有した財産の移転に関する税金が、遺産税(estate tax)です。総財産の死亡時価額が控除額を上まわる場合、遺産税申告義務が生じます。連邦(federal)の遺産税に加え、州によっては、州(State)の遺産税もあります。ニューヨーク州はそのひとつです。
 連邦の方は、2012年米納税者救済法(ATRA)によって遺産税控除額が500万ドルに固定された(インフレ調整により15年現在は543万ドル)のに対して、ニューヨーク州では、長く遺産税控除額は100万ドルのままでした。しかし、14年4月1日に、ニューヨーク州遺産税・贈与税の制度に、過去10年以上類をみない極めて大きな変更がありました。新税法のもと、州遺産税控除額は100万ドルから500万ドルに徐々に引き上げられ(インフレ調整がなされ)、19年1月1日までに連邦控除額と同様になります(下表を参照)。
 ただし、新法の納税者への影響は、エステートの規模によって大幅に異なることにご注意下さい。新法には遺産税の「崖」(Cliff)があって、州遺産税控除額を5%以上超えるエステートは、最初の1ドルから課税されます。ニューヨークの課税対象財産が100万ドル(14年4月1日以前の控除額)は超えるが新法による州控除額を下まわる納税者にとっては、この法改正は朗報ですが、州控除額を5%超える課税対象財産を持つ層にとっては、新税法案は、法改正前と同程度に高くつくことになりかねません。ちなみに、このたびの税制改正でもニューヨーク州遺産税の最高税率は16%に据え置かれました。
 さらに新法によると、遺産税の計算の際、一定の例外を除き、死亡時から3年以内になされた贈与が戻し加算されてニューヨーク州遺産税課税対象遺産に含まれることになります。
 連邦遺産税法には、極めて重要な「移動継続選択」(portability)規定があります。移動継続選択によれば、生存配偶者は、亡くなった配偶者が使用しなかった連邦贈与・遺産税控除額を使用することができます。しかしニューヨーク州では、今のところ移動継続選択を採用していませんので、課税対象財産の額により、既婚納税者の方々にとっては、個々の事例に適したエステートプランニングのテクニック(クレジットトラストなど信託の設定や、贈与、夫婦間で財産を分離するなど)が、引き続き必要となるでしょう。
 特に、財産を受け取る配偶者が米国籍でない場合、米国籍の配偶者への贈与・遺贈の場合に適用される無制限の配偶者控除がありませんので、課税対象財産の額により、遺産税・贈与税のタックスプランニング(財産を制限付家庭内信託QDOTに移管するなど)が必要となるかもしれません。

※上述はあくまでも一般的な説明であり、個々のケースによって手続な どは異なりますので、必ず法律専門家に相談するようお願いします。


滝川玲子(たきかわ・れいこ)
ウインデルズ・マークス・レーン・アンド・ミッテンドルフ法律事務所パートナー、ニューヨーク州弁護士。上智大学外国語学部英語学科、同法学部国際関係法学科卒業後渡米、ニューヨーク大学ロースクール法学修士。日米両国の弁護士事務所の他、日本企業での勤務経験もある。総合法律事務所のニューヨークオフィスにおいて、遺書・遺産に関する法律を中心に、日米両国のクライアントをもつ。現在JAAにおいて、2ヵ月に一度の無料法律相談を担当。
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