TAX SPECIALIST羽山 徹の税金をはじめとしたお金の話あれこれ Vol.21 日本の金融(銀行・証券)口座情報開示ルールの強化

問:最近よく耳にする、米国の居住者が日本に持っている銀行口座の情報開示について教えてください。

回答:もし海外に金融口座を所持していて、その残高が1万ドル(日本円で15年度は121万円)を超えている場合は、その口座情報を米国政府に開示しなければなりません。実はこのルール、20年数年ほど前から存在していて、該当者は確定申告書と別に、6月30日までファイリングしてきました。ところが数年前に、米国政府が海外金融口座の情報開示に関して厳しい政策を打ち出しました。その結果、(故意に)情報開示をしなかった者には、多大なペナルティを科するという規定を前面に押し出したために、大きく知られるようになりました。

問:では海外(日本)に銀行口座を持っていて、残高が121万円以上であれば、15年度は情報開示する必要があるのですね?
回答:対象となるのは、銀行口座だけではなく、証券口座(野村、大和などの証券会社で口座を開けてそこに特定銘柄の株、債券、投資信託を有している)も含まれます。

問:市民権を持っている人や永住権保持者だけがこのルールの対象ですか。
回答:いいえ。米国居住者とは、「US Resident alien」も含みます。すなわち、外国(日本)籍のまま就労ビザで米国に住んで働いている方々も該当者です。

問:口座ごとに121万円以下であれば情報開示をする必要がないのですね?
回答:例えば、Aさんが、日本に銀行口座を3つ持っていて、それぞれの残高が50万円相当だとします。この場合、Aさんの3つの金融口座の合計残高額(150万円)が、121万円を超えているかどうかの基準となります。Aさんは3つの銀行口座の情報を開示する必要が生じます。

問:では、必要な開示内容項目を挙げてください。
回答:銀行名、証券会社名、口座番号、支店の住所(郵便番号含む)、年間最高残高です。これらを、FinCEN Form 114でE-filingしなければなりません。

問:海外の金融口座情報に関する開示義務はこれだけですか?
回答:実は4~5年ほど前から新たに次のルールが加えられました。すなわち、独身者で確定申告をする納税者が、海外に金融口座を持っていて、その年度末の口座総残高が5万ドル(15年12月31日現在、605万円超)を超える場合は、その全部の口座情報を開示しなければならない、というものです。夫婦合算申告の場合は、お2人の海外金融口座の年度末残高が10万ドル(15年12月31日現在、1210万円超)を超えている場合がそれに該当します。

問:そうすると、年度末の残高が決め手となるわけです。
回答:そうとも限りません。年度末(12月31日)の残高が基準以下でも、一年を通じ最高残高が、独身者の場合7万5千ドル(907万5千円)を超えていたら、一方、夫婦合算の場合は、15万ドル(1815万円)を超えていたら、同じように全口座の情報を開示義務が発生します。例えば、独身者のBさんの海外金融口座全部の年度末残高合計が500万円でした。しかし、同じ年の7月の合計残高が年間最高額980万円を記録していたが、その後500万円ほど引き出した(または、株価が下がりその結果、残高も減少し続けた)ので、年度末の残高が500万円(5万ドル以下)になったとします。この場合、Bさんは、全金融口座の口座情報を「Form 8938」に開示してForm 1040 に添付してIRSに提出することになります。

問:開示内容は、先ほどのものと同じものですか
回答:同じです。銀行名、証券会社名、口座番号、支店の住所(郵便番号含む)、口座最高残高などです。それに加えて、このForm 8938にはこれら外国金融口座からの受取利子、受取配当金、売却益(Capital Gain)などが、Form 1040のどこに計上されているかを報告する個所があります。従いまして、日本からこれらの情報を早めに詳細に得る必要があります。

問:なぜIRSは海外の金融口座情報や、口座からの収入情報の入手を強化しているのでしょうか?
回答:では、ここで小クイズです。米国居住者(US Resident)の、確定申告書で課税の対象となるのは、どのような収入が含まれますか?

問:居住者の課税対象収入は、確か、米国源泉収入だけではなく、外国源泉収入を加えたもの、つまり全世界収入(World-wide income)が対象となるのが解答かと思います。
回答:正にその通りです。銀行口座から発生する利子所得に関しては、米国の銀行口座はもちろんのこと、日本の銀行口座から受け取る利子所得もForm 1040 に加えて税金を払わなければならないわけです。受取配当金も同じです。米国の証券口座から受け取った配当金だけでなく、日本の証券口座で持っている特定銘柄の株や投資信託から受け取った配当金も、Form 1040 に収入として計上しなければなりません。

問:2015年度の確定申告の期限(4月18日)まで10日余りですが、注意事項がありましたら教えてください。
回答:まず、この期限というのは、確定申告書、連邦所得税でしたらForm 1040をIRSに提出する期限日を意味します。E-filingをする場合は4月18日午後11時59分までに、ファイリング用ボタンを押せば、期限内に提出したことになります。そして、時間内(18日11時59分まで)に「拒否:Reject」されなければ、たとえ、IRSが実際にサーバー経由で受け取ったのが4月の19日でも20日でも、提出期限内に提出されたものと処理され、遅延申告(Late filing)とはならず、問題ありません。

問:E-filingではなく、申告書を郵送する場合は、18日までに所定のIRSオフィスに届いている必要があるのですか?
回答:郵送の場合は、「18日当日の消印」までが有効とされています。20日過ぎにIRSオフィスに届いたとしても、消印が18日までであれば期限内提出されたと処理されます。連邦並びに州の予定納税の支払い(第一回目:4月18日、第二回目:6月15日、第三回目:9月15日、第四回目:2017年1月17日)で小切手を郵送する場合も、同じ扱いです。

問:延長申請をするときの注意点はありますか?
回答:4月18日までに延長申請すると、自動的に6カ月後の10月17日まで提出期限が伸びることになります。但し、延長されるのは「申告書を提出する日」だけで、税金の支払いが延長されるわけではありません。支払いの期限はあくまでも4月18日までです。この点にはお気を付けください。

問:なるほど。提出の延長申請認可=支払いの延長も認可、と思い込んではいけないということですね。
回答:その通りです。もし、1000ドルの支払いがある申告書を延長申請し、9月下旬に実際に申告書を提出したとすると、4月18日から実際に支払われた9月下旬までの、ペナルティと延滞利子税とが加算されてしまいます。
問:延長する際に、追加の支払いが出そうな場合は、あらかじめある程度の支払いを申請時に支払っておいた方が得策ですね。
回答:その通りです。もし申告時に多めに払っていたために、最終的に提出した申告書で過払いが生じても、その分は還付請求して戻ってきます。

Financial Advisor / Tax Specialist
羽山 徹
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