ニューヨーク周辺への転入が決まったら(1) 市内と郊外の学校システムの違い

アメリカ国外や州外からニューヨーク周辺へ転入をする場合、子ども連れの家族が 真っ先に考えるのが、学校のことだろう。ニューヨーク周辺の学校選びで知っておきたい基本的な情報をお届けする。

広々とした郊外の校舎

広々とした郊外の校舎

学校進学における選考過程の有無

ニューヨーク市と周辺地域(便宜上「郊外」)では公立校進学システムが大きく違う。転入先を市内にするか郊外にするかの選択肢がある場合、このシステムの違いを理解しておくことが役に立つ。
ニューヨーク市は、マンハッタン、クイーンズ、ブルックリン、ブロンクス、スタテンアイランドの5ボローを一括してニューヨーク市教育局(New York City Department of Education=NYCDOE)が管轄する、全米で最大規模の生徒数と学校数を有する教育自治区だ。
それ以外のニューヨーク郊外(ウエストチェスター郡など)、ニュージャージー州、コネティカット州では、各学校区(School District =以下ディストリクト)が公立校を管轄している。
両者の間で一番大きな違いは、進学時のプロセスといえる。
郊外の場合、基本的に、ディストリクト内に数校ある小・中学校と、それらが統合される高校1校という構成になる。小・中学校は通学区(スクールゾーン)で定められ、 高校までは無条件で進学、転入ができる。いわば小・中・高一貫校に似た落ち着いた教育環境といえる。
これに対し、ニューヨーク市公立校の入・進学のシステムは多様で複雑だ。市は31のディストリクトに分かれ、さらにスクールゾーンに分かれている。
基本的にゾーン校に通学するのは小学校となり、中学以降はディストリクト全域および、市全域の生徒を対象とする学校から進学先を選ぶことになる。
中学の質はディストリクトによって異なるため、中学進学時までを見据えてニューヨーク市内へ転入を考える場合、候補地のスクールゾーンとディストリクトを確認し、そのディストリクトの中学状況をチェックすることも考慮に入れるとよい。(表1参照)
中学以降の選抜制度(Selection process)では、生徒は希望校複数を選んで願書を提出し、各学校の定める選考過程を経て最終的にコンピュータが生徒と学校をマッチさせる「マッチングシステム」によって進学校が決まる。その過程に入学試験やオーディション、面接のある学校があるため、「受験」の様相を呈してくる。
生徒数に対して学校不足が常態化しているため、人気校は常に定員で埋まり学期途中の転入生を受け入れる余裕がないのが実情だ。中学はまだチャンスはあるが、水準以上の高校への転入は、ほぼ不可能と考えた方がよい。
ただし、小学校のギフテッド&タレンテッドテストと、マッチングとは別枠のスペシャライズド高校8校の入学試験SHSATは、テスト実施後にニューヨーク市へ転入した生徒用に、新学期前8月にサマーテストを実施するので、希望者は受験することができる。

一つのビルに複数の学校が混在することも珍しくない市内の学校

一つのビルに複数の学校が混在することも珍しくない市内の学校

選択肢の多いニューヨーク市内の学校

郊外では住む場所で必然的に学校も決まるが、 学校数の多い市内では、それぞれの学校に特色があり、学校選びの選択肢が増える。
一例として、ギフテッド&タレンテッドプログラム、音楽専門教育のSpecial Music School、 プログレッシブ教育、芸術専門学校、独自の教育カリキュラムを施すチャータースクールなど、多様な学びのスタイルが提供されている。
地の利を生かした学習プログラムも豊富だ。カーネギーホール、リンカーンセンター、ブロードウェー、自然誌博物館、メトロポリタン美術館、プロスポーツ団体、コロンビア大学やNYU 、CUNYなどとの提携はその一例だ。
地域コミュニティーのカルチャーは、校風や教育内容にも反映しやすいが、逆に正反対となる場合もある。新土地開発による瀟洒なコンドミニアムの立ち並ぶ地区は、ゾーン校が開発に追いつかず、望む学習レベルに至っていないケースもある。物件を探す時は、必ずその住所のゾーン校を確認しよう。

滞在年数と帰国後のプラン

ニューヨーク滞在期間が限られて、特に日本で受験を控える場合は、日系進学塾の多い郊外はポイントが高く、生の情報も入りやすいだろう。現地校での進学受験のストレスもない。
一方、低学年の間だけであれば、あえて多様な文化の混在するニューヨーク市の学校生活が貴重な体験になるという考え方もある。
子どもの大学進学を見据えて住む場所を決める場合、郊外では最終的に通学する高校のレベルで判断するケースが多い。進学率やSAT・ACTスコア、コースの種類などだ。しかし、教育熱心で意識も高いディストリクトは、住居費や税金も高くなる。郊外では親の経済力が学校選びに直結する面は否めない。
反面、市内は受験で他地区の学校への通学も可能になるため、居住地を左右する親の経済力のみが学校選びのファクターにならない面がある。
高校になると、市内全域の学校へ願書を出せる。塾や家庭教師のコストはかけようと思えば上限はないが、受験準備は日本と違い短期戦だ。無料や低コストの指導、インターネットコースも存在する。親子の意思と気合いで、経済的ハンデを克服する道があるのも大都市ニューヨークの特徴といえる。
以上、ニューヨーク郊外と市内の学校システムの違いを大まかに紹介した。次回は、個々の学校情報をどのように事前に得るかの説明をする。(文=河原その子)

kazoku67

一つのビルに複数の学校が混在することも珍しくない市内の学校
http://www.greatschools.org/school-district-boundaries-map/