大竹彩子(焼酎&タパス 彩)焼酎とチーズのお話 毎月第4月曜号掲載 第四回

第四回:芋焼酎「萬膳」とブルゴーニュ産「エポワス」
3年目に入りました焼酎ソムリエ大竹彩子によるこちらのコラム。今年度はチーズと焼酎とのペアリングをテーマに、ニューヨークで飲める焼酎の中から毎回一銘柄をピックアップし、それに合うチーズを紹介していきます。月曜の夜からチーズをつまみに焼酎を一献いかがでしょうか?

 鹿児島の霧島連山の麓にあるやっと車1台通れるかどうかというほどの細い山道を奥まで進んでいくと、高い木々と隣を流れる小川に囲まれるようにひっそりと佇む小さな蔵、万膳酒造が現れます。「誰も造っていないような場所で焼酎造りをしたかった」。そう話す万膳利弘さんが造る代表銘柄、芋焼酎「萬膳」はプレミアム三大芋焼酎3M(森伊蔵、魔王、村尾)に続く4Mと言われるほど高い評価を受けています。製法は昔ながらのかめ壷仕込みで木桶蒸留機を使用。蒸留後も油分などを取り除くためのろ過はせず、それを全て丁寧に手作業ですくい出すというこだわりよう。そのお味は原料の芋である黄金千貫の甘みを最大限に引き出し、コクはどこまでも深く、トロッと口の中で音が聞こえそうなほどまろやかです。続く余韻の中に木桶蒸留独特の木のような渋みが合わさり、それが芋の甘みとのバランスを取り、意外と辛口の印象を飲む人に持たせます。口の中で表情が変わっていくのも「萬膳」の醍醐味と言えます。
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 「萬膳」と共に味わうチーズとして、フランス・ブルゴーニュ産「エポワス」はいかがでしょう。牛乳を原料とするエポワスは、マールといってブドウの搾りかすから蒸留したブルゴーニュ地方の地酒と塩水で表面を洗いながら熟成させることによって、独自の香りと旨みを凝縮させていくウォッシュチーズの代表格です。表面のオレンジ色の皮にナイフを入れると、ミルク色のとても柔らかい身がトロリと顔を見せます。完全に切ってしまうと身が流れ出て形が崩れてしまうので、丸い皮に閉じ込めたまま真ん中からすくってパンに塗るなどして楽しむのが一般的です。エポワスは臭いという印象が強いものの、やわらかい身の部分はそれほどではなく、むしろ、濃厚でとろけるような食感は癖になります。皮の部分も、その独特な香りとマールから来るほのかなブドウの酸味と共にいただくことができます。
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 芋焼酎のコクの王様「萬膳」とチーズ界のコクの女王「エポワス」の“とろける”マリアージュは、一度試したら忘れられない瞬間となること間違いなしです。

一口メモ
「萬膳」は本文にある通り、小さな蔵で数人の職人さんによって手作業で造られるため、その生産量はとても少なく希少です。そんな国内ですら入手困難な焼酎をニューヨークで飲むことができるのはとても嬉しいですね。ぜひ弊店でお試しください!

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大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com