自由の女神の精神 2017年のニューヨークで思うこと

 恐れていたことが現実になった。先月11日夜のバージニア大学キャンパスでの白人至上主義者たちの松明を掲げたデモと、翌12日にシャーロッツビル市内で起きた衝突を見て真っ先に感じたことだ。松明を掲げたデモは、昔見た、KKK(Ku Klux Klan)を取り上げた映画を思い出させた。デモでは、憎悪に顔を歪ませた白人男性たちが、自分たちの人種が最も優れ、他の人種を排除すべきだと訴えている。

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息を吹き返したKKK

 米国のダークサイド、KKK。南北戦争が終わった1865年に南部の奴隷商人がテネシー州で結成したのが始まりといわれている。この時期は南部連合州で猛威を振るったが、1915年から20年代半ばには中西部や西部の都市部にも飛び火した。アフリカ系米国人のみならずカトリック系移民やユダヤ人も攻撃の対象になった。
 彼らはナチスドイツに倣い、米国の「アングロサクソンの血」に執着しているとされ、ネオナチともリンクする。2015年にサウスカロライナ州で起きた黒人教会襲撃9人銃殺事件の犯人はナチに心酔した白人至上主義者だった。彼は「KKKの代わりに実力行使に出る」との内容の覚書を残している。昨年の大統領選挙でKKKの元最高幹部、デイビッド・デュークがトランプを支持したことも記憶に新しい。あのときの嫌な感じは現実のものとなった。
 筆者がまだ日本にいた2013年、所属していた男性誌でKKKのナショナルディレクター、トーマス・ロブの単独インタビューを掲載したことがある。南部アーカンソー州ハリソン市に住み、「KKK最後の生き残り」と呼ばれていたロブは驚いたことに「自分たちは白人至上主義者ではない」と語った。ただ、「白人は後世に伝えるべき誇るものや守るべき遺産を持っており、他人種を排除すべきというよりは、(他人種と交わって)うまくいくはずがないので、一緒にいるべきでない」と考えているのだと。そして「守ろうとしているのは『自分たちの種』なのだ」と強調した。
 KKKの統計によると、24年には全米で白人の人口は半分を切るという。彼らが恐れるのは、「種の絶滅」なのだ。ロブはこれを「ホワイトジェノサイド」と位置付けていた。「白人であることを誇りに思い、それを主張することは恥ずべきことなのですか?それは逆差別ではないのですか?」と。

パンドラのふた開けた大統領

 この主張には、人種差別を根絶する難しさが潜んでいる。洋の東西、時代を問わず脈々と生き続ける「差別」。そして「America First」のキャッチフレーズを掲げて登場した新しい大統領は、置き去りにされた白人たちの恐れと不満、憎悪をあぶり出し、ポリティカルコレクトネスと呼ばれる「パンドラの箱」をいとも簡単に開けてしまった。衝突の映像を目にし、白人至上主義者を擁護するような大統領のコメントを聞き、なんとも暗い気分になっていたが、ニューヨーカーも各地で異を唱えた。大挙してトランプタワーに押し掛けた。そうか、ニューヨークには「これはおかしい」とちゃんと言ってくれる人がいる。ニューヨークに住んでいてよかった。

リンダ・グラサーとクレア・A・ニボラによる絵本「Emma’s Poem: The Voice of the Statue of Liberty」(2013年刊)は、米ジュニア・ライブラリー・ギルドの推奨図書。小学4、5年生のコモンコアテキストにも選ばれている

リンダ・グラサーとクレア・A・ニボラによる絵本「Emma’s Poem: The Voice of the Statue of Liberty」(2013年刊)は、米ジュニア・ライブラリー・ギルドの推奨図書。小学4、5年生のコモンコアテキストにも選ばれている

この国が第一とする精神

 米国は移民で構成された国だ。この国の力強さの源はダイバーシティ、多様性だ。こんなときだからこそ、移民たちが米国に到着した際に拝んだ、ニューヨークの象徴、自由の女神の台座に彫られた詩を紹介したい。夭折の詩人、エマ・ラザラスが1883年に書いたソネット(14行詩)がこの国が本当に“第一”とする精神を端的に表していると思うから。
 自由の女神の正式名称は、「世界を照らす自由(Liberty Enlightening the World)」。これが世界文化遺産に指定されているのは、寛容をもってする米国の精神こそが、世界の人たちが共有すべき普遍的な価値だからなのだ。

 続発する悲しい出来事に怒っているようにもあきれているようにも、あるいは優しく包み込むように微笑んでいるかのように見える自由の女神は、今日も私たちを見守っている。

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The New Colossus
by Emma Lazarus 
(1849-1887)

Not like the brazen giant of Greek fame,
With conquering limbs astride from land to land;
Here at our sea-washed, sunset gates shall stand
A mighty woman with a torch, whose flame
Is the imprisoned lightning, and her name
Mother of Exiles. From her beacon-hand
Glows world-wide welcome; her mild eyes command
The air-bridged harbor that twin cities frame.
“Keep, ancient lands, your storied pomp!” cries she
With silent lips. “Give me your tired, your poor,
Your huddled masses yearning to breathe free,
The wretched refuse of your teeming shore.
Send these, the homeless, tempest-tost to me,
I lift my lamp beside the golden door!”

我に委ねよ
疲れたる貧しき者を
自由の空気を吸わんと
身を寄せ合う哀れな群衆を
住む家なく嵐にもまれし者を
我は、黄金の扉の傍で灯を掲げん
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取材・文/山田恵比寿 外資系出版社勤務を経て、2014年からニューヨーク在住。特派員としてインターナショナル誌の編集やコーディネートを担当する。