摩天楼クリニック「ただいま診察中」 血液大全 【10回シリーズ、その8】その他の血液の病気(上)

リンパの病気(完)
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川畑公人 Kimihito Cojin Kawabata, M.D., Ph.D.
コーネル大学医学部血液腫瘍内科博士研究員。2003年九州大学医学部卒業、医師。11年東京大学大学院医学系研究科卒業、医学博士。03年から国立国際医療センター医師。11年から東京大学医科学研究所研究員、日本学術振興会特別研究員を経て16年10月から現職。専門は血液悪性腫瘍、分子生物学。

Q今回は、血液のもう1つの異常事態とも言える「出血」についてご指導ください。そもそも出血とは、血液学の立場から見るとどんな現象で、なぜ出血するのですか?
A出血とは、血液が血管の破綻で血管の外に出てしまうことです。出血を理解するときに重要な血液の仕組みは、血小板がふたをすることと、血液自体が固まって強固なふたをすることです。これらを「血小板凝集」と「血液凝固」と呼んでいます。出血しやすくなることを「出血傾向」と言います。

Q血管が破れると血液にはどんなことが起きるのですか?
Aまず血小板の塊ができる一次止血が起きます。血管の下にあるコラーゲンなどを目印に血小板が集まります。詳細は省略しますが、さらに血小板同士が集まり固まって血小板中心のふたである血栓を作ります。これを血小板凝集による「一次止血」と呼んでいます。

Qまるで火事の通報を受けた消防隊がここぞとばかりに集まってくる感じです。とにかく穴を塞いで血管の修復・回復を待つ、というわけですか?
Aはい。ところが血小板が作るふたは剥がれやすく、これだけでは完全に血は止まりません。そこで次に「血液凝固」が起こります。血液中には凝固因子という酵素があって、実際には十数個の酵素の反応の連携によって血液を固めることで止血を補強するのです。私たちは「凝固カスケード」と呼んでいて、少々複雑なのですが最終的にはフィブリンという糊状の物質が作られます。これが「二次止血」という現象です。

Q血小板や凝固についてはかなり奥が深そうですね。出血とどのように関係しているのですか?
A難しく考えるとなかなか手強い分野ですが、簡潔に言うとこういうことです。
 まず血管が破れたときにすぐにやって来て、ふたをする血小板の減少や異常でちょっとのことで出血しやすくなります。一方、主に肝臓で作られる凝固因子が不足すると血小板のふたを補強する血液凝固がやられるので出血した後にそれを止め補強することが苦手になり、一度止まったものが数日後に再び出血するなどの症状が起きます。これを「後出血(こうしゅっけつ)」と呼びます。急性白血病など血液の病気で骨髄がやられたとき血小板は減ります。凝固因子が不足する病気で最も知られているのは遺伝性の病気である血友病です。これは凝固因子の第VIIIもしくは第IX因子が欠乏して起こります。

Q出血するとすぐに働く2通りの止血メカニズムについてはかろうじて理解できました。ではどうして出血したのか? 原因は初診の過程でどのくらい分かるものなのですか?
A出血の原因は出血しやすい病変(胃腸の粘膜など)があるか、どのような外力が加わったかなどの情報によって診断されるものですから、血液内科独自でというよりは放射線などの画像検査、内視鏡などで総合的に診断されるものです。まずは出血傾向をどのように疑い、診断のための検査に速やかに誘導するか、同時に止血の治療をどうするかということが重要だと思います。
 例えば、出血による皮膚粘膜の病変(いわゆる内出血)を診るときには、そのサイズによって、点状出血、紫斑、斑状出血とタイプ分けしますね。次回でお話ししますが、出血部位や大きさはある程度、出血の機序(メカニズム)と関連があります。問診も重要で、血小板の減少や血管壁の異常により点状出血や紫斑が現れると考えられますが、一般的にかゆみがなく、盛り上がりとして触れることができず、押しても消えないのが特徴です。また、紅斑と呼ばれる赤みがかった皮疹と紫斑との区別がつきにくいのですが、指やスライドガラスで圧迫すると消えるのが紅斑。これは内出血ではありません。

Braunwald's Heart Diseaseより著者ら改変

Braunwald’s Heart Diseaseより著者ら改変


Q吐血、下血、鼻血など部位による出血の違いは原因と関係あるのでしょうか?
A鼻血は、テレビドラマなどで安易に扱われるので、最もよく取り上げられますが、間違えやすい症状として例えば、アレルギー性鼻炎が原因で粘膜が薄く脆弱になると、何度も触ることで鼻血が出やすくなることもあります。ここは「ギーゼルバッハ部位」といって出血と再出血を起こしやすいので、これを白血病などの原因で血小板が減ることで出血する場合と混同する患者さんは少なくないです。
 吐血や大量の下血、黒色便などは胃や十二指腸など上部消化管からの出血が想定され、大腸などの出血より緊急性が高いことがままありますので、血液だけの診断に時間をかけるのではなく、緊急の判断で輸血をして消化器科と止血しながら診断を進めるということもよくあります。

 いつまでも血が止まらない状態はなんとも不安なものです。出血を引き起こすさまざまな原因、特に血液の病気についてもっと知りたいです。来週もよろしくお願いします。