連載㉑ 山田順の「週刊:未来地図」 憲法改正前に知っておくべきこと(前編4)なぜアメリカは「平和憲法」をつくったのか?

アメリカの平和のための「平和憲法」

 さて、日本のリベラルを中心にして、日本国憲法は「平和憲法」と呼ばれている。第9条が戦争を放棄し、陸海空軍を持たないのだから、彼らがそう呼ぶのは、一見すると正しいように思える。
 しかし、では、この条項で日本の平和は本当に保たれるのかというと、そんなことはあり得ない。武力で攻撃されたとき、反撃する手段がないのだから、保たれるのは「平和」ではなく、侵略者への「隷属」である。
 そして、この条項でもっともトクできるのは、アメリカである。なぜなら、日本は武力を持てないのだから、戦前のようにアメリカを攻撃できないからだ。つまり、日本国憲法は平和憲法であるが、それは日本のための平和ではなく、アメリカの平和のための憲法なのである。
 そしてアメリカは、この平和を盤石にするために、さらに9条に、次の表現を入れている。それは、日本語文の「陸海空軍」(land, sea, and air forces)の次にくる、「as well as other war potential」である。これを日本語文では単に「その他の戦力」としているが、はたしてそうだろうか?
 potential(ポテンシャル)とは、日本語にもなっているように、「潜在能力」のことである。とすると、これは単なる戦力ではなく、戦争を遂行するために必要なあらゆる能力となり、それは単なる軍隊、武器を超えて、それを生産する能力まで「保持しない」となるのが、常識的な解釈となる。
 つまり、日本国憲法は日本が永久に武器を生産することすら放棄させているのである。しかも、それを日本国民の総意であるとしている。つまり、日本国憲法は、日本国民が、日本が主権国家たることを放棄するという文脈で書かれているのだ。
 これが、英文を正確に読めばわかる「憲法の本質」である。だから、ハイデン氏は、トランプがこのことをわかっているのか? と指摘したのだ。

単に自衛隊を明記するという“姑息な”改正案

 さて、このような憲法を永久に守り通そうとするのが、日本のリベラルといわれる人々である。戦争を回避して、なんとか平和を維持する努力をすることと、日本国憲法の条文はまったく関連しない。それなのに、彼らはあたかも関連しているように言うのだ。
 安倍首相がこれまでに表明してきたところによると、憲法改正の内容は、「第9条1項、2項を残し、新たに3項をつくり、そこに自衛隊を明文で書き込む」ということのようだ。
 しかし、そんなことで、日本国憲法の本質が変更できるわけがない。前記したように、1項は「戦争放棄」を、2項は「戦力の不保持」をうたっている。したがって、これらを残してしまっては、改正の意味がまったくなくなってしまう。1項、2項を残したまま、単に自衛隊を明文化して付け加えても、それでは矛盾が大きくなるだけだからだ。
 つまり、「1項、2項を残す」というのは、左派・リベラル・護憲派におもねった“姑息な”改正案と言わなければならない。もっと言えば、首相として、本当にこの国と国民の平和と安全に責任を持っているのかと指摘したくなる。このような大きな矛盾を抱えたまま、いまの日本は憲法改正に向けて突き進もうとしている。そして、これに左派・リベラル・護憲派が激しく反対している。
 そこで次回は、憲法改正に反対で、憲法を守り通したいのは、じつは左派・リベラル・護憲派ではなく、右派・保守・改憲派であるということを述べてみたい。
(前編了。後編につづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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