連載38 山田順の「週刊:未来地図」もはや付ける薬がないトランプ このままアメリカは世界に見放されてしまうのか?(中)

暴露本の反論とまさかの「私は天才だ!」発言

 もうさんざん報道されているので、ここでは暴露本『Fire and Fury: Inside the Trump White House』(「炎と怒り:トランプのホワイトハウス、その内側」、マイケル・ウルフ著)については、詳しく触れない。ただ、結論といくつかの要点を書いておくと、以下のようになる。
 まず、トランプは大統領には不適である。多くの政権幹部はトランプを「まぬけ」と呼んでいる。トランプから解任されたS・バノンはドナルド・ジュニアを「売国的」と言っていた。なんと、トランプは大統領に当選して当惑した。それは、大統領選に出たのは売名のためで、自分が当選すると思っていなかったからだ。トランプは友人の妻たちとの性行為が「生きる価値」と自慢していた。愛娘のイヴァンカはトランプの髪型の秘密を他人に暴露し、からかっていた。彼女は大統領を目指している。トランプはメディア王R・マードックを尊敬しているが、マードックはトランプを「大馬鹿」と呼んでいる。
 もちろん、こうした内容を、トランプは全否定した。また、バノンに対しては「愚かなバノン」(sloppy Bannon)と言って罵倒した。さらに、よせばいいのに「私は成功したビジネスマンからテレビのトップスター、そして大統領にまで上りつめた」と強調したうえに、「私はただ頭がいいだけでなく、天才に当たると思う。しかも情緒の安定した天才だ」( I went from VERY successful businessman, to top T.V. Star, to President of the United States of America (on my first run).I think that would qualify as not smart, but genius….and a very stable genius at that!)と、言ってのけた。
 いったい、どこが天才だろうか? 天才はけっしてそんなことは言わないはずだ。

南北高官級会談後にまたしても“オレ様自慢”

 暴露本騒動と同時進行で、トランプが“おバカぶり”を発揮したのが、北朝鮮問題だった。ロケットマン金正恩が新年の声明で、平昌五輪に参加する意思があることを表明すると、コロッと態度を変えて大歓迎。ありえない、無条件対話路線に走ったのである。
 北はなんの譲歩もしていないのに、平昌五輪に参加するというだけで、米韓軍事演習を延期し、南北高官級会談を前にして、こう言ってのけた。
 「五輪だけにとどまらずそれ以上のものになるよう期待する。適切な時期にアメリカも(対話に)参加するだろう。そうした対話からなにかが生まれるのであれば、全人類にとって、世界にとってすばらしいことだろう」
 こうして、まったく成果のない南北高官級会談が行われた。そして、会談後、韓国の“日和見大統領”文在寅と電話会談すると、またも自画自賛が始まった。トランプは、アメリカが北朝鮮に対して強硬な態度をとっていなければ対話は実現しなかったとし、「ムンは私に非常に感謝していた」と言ってのけたのだ。
 他人から感謝されると、すぐ嬉しくなって、「それ見たことか」という“オレ様自慢”は、こういうときにも出てしまうのだから、本当に情けない。

「金正恩と突然、親友になる」という出まかせ

 トランプは1月10日、北と南の対話に関して、ホワイトハウス記者団にこう言った。「向こう数週間~数カ月はなにが起きるか様子を見る」
 要するに、あらゆる選択肢のなかの一つ「先制攻撃」をしないことを表明してしまったのである。これで、ロケットマンは五輪閉幕の2月25日まで、安心して暮らせるのだから、トランプの政治判断の甘さは信じがたい。
 このような“オレ様大統領”に、副大統領のペンスはよくつき合っているとしか言いようがない。トランプ会見後、ホワイトハウスはペンス副大統領夫妻が平昌五輪でアメリカ代表団のトップを務め、2月9日に行われる五輪開会式に出席すると正式に発表した。自分が行けばいいものを、副大統領に行かせる。ペンスは本当にいい迷惑だろう。
 トランプの頭が空洞だと思わせたのが、1月12日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビュー記事だ。このなかで、トランプは「おそらく金正恩とは非常にいい関係にある」とし、「私は人々と関係を築ける。みなさんは驚いていると思うが」と言ったのだ。それで、インタビュアーがキムと会話を交わしたのかと聞くと、「それについてはコメントしたくない。会話したか否かは言わない。コメントしたくない」と、偉そうに答えている。
 さらに、金正恩に軽蔑的な呼び名をつけたことについて、「幅広い戦略の一環」などと言い、挑発的なツイッターに関しては「私にそれが多いのはわかるはずだ」としたうえで、「それでありながら突然、親友同士になったりする。20例は挙げられる。あなたは30の例を指摘できるかもしれない。私は非常に柔軟な人間だ」と述べたのである。 「(敵なのに)突然、親友同士になったりする」というのは、オレ様は変幻自在だ。「どうだ、すごいだろう」という自慢であり、「20例は挙げられる」と言うのだから、具体的に挙げてもらいたいものだ。
(つづく)

この続きは、1月23日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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