トランプNATO発言の背景  アメリカはローマ帝国と同じ道をたどるのか?(中1)

(この記事の初出は2024年2月13日)

「アメリカ第一主義」はアメリカを衰退させる

 かつて、第二次世界大戦勃発時、アメリカ世論は参戦に大反対だった。ナチスドイツが欧州を支配しようと、それは欧州のこと。なぜ自分たちの子供を欧州に送ってナチスと戦わねばならないのか?そんなことは、欧州自身が自分たちで解決すればいいというのが、当時のアメリカ国民の大多数の意識だった。
 このアメリカ国民の当時の意識と、いまのトランプを支持するアメリカ国民の意識には似たものがある。だから、トランプが唱える「America First」(アメリカ・ファースト:アメリカ第一主義)を、彼らは支持する。「MAGA」(Make America Great Again:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン:アメリカを再び偉大に)に熱狂する。
 しかし、「アメリカ・ファースト」も「MAGA」も、それを唱え、推進すればするほど、じつはアメリカの世界におけるプレゼンスは失われる。アメリカの経済、そして文化も衰退していく。

不勉強と素行不良でミリタリー・アカデミーに

 これまで、世界は「パックス・アメリカーナ」(アメリカによる覇権が形成する平和)で成り立ってきた。そして、それが、今日の世界の安定、成長、繁栄をもたらしてきた。
 歴史や地政学、政治学を学べば、こんなことは誰にでもわかる。
 ところが、トランプはこのことがわからない。トランプは、なぜいまのアメリカ、いや世界が成立しているのか知らない。それもそのはず、彼は勉強したことがないのだ。
 ここで、トランプの学歴をたどってみよう。
 彼は、ミドルスクールまでは、不動産業を営む父が運営委員を務めるNYクイーンズのフォレスト・ヒルズ地区の小中学校に通った。しかし、あまりの素行不良と不勉強のため、13歳からは父親によってニューヨーク・ミリタリー・アカデミー(陸軍幼年学校の1つ)に転入させられた。
 ミリタリー・アカデミーは全寮制で、軍事教練を取り入れたプログラムがあるため、一般の学校より厳しい。しかし、トランプの素行不良と不勉強は治らず、成績不良のまま、受け入れてくれるフォーダム大学に進学することになった。当時のアメリカはまだ徴兵制を敷いていて、大学進学はそれを逃れる道だった。

フォーダムもUペン・ウォートンも裏口入学

 フォーダム大学は授業料が高い私学であり、GPAとSATのスコアが低くても、親が寄付金を積めば別枠で入学できる。トランプは、ここに2年間通い、その後、名門Uペン(ペンシルベニア大学)のウォートンスクールにトランスファーした。
 ウォートンスクールは、ビジネスとアカウンティングでは超名門で、ここでマスター(ビジネス修士:MBA)を取れば、ビジネス界ではエリートとなる。しかし、トランプが取得できたのはバチェラー(経済学士:BS Economics)だけ。在学中は、ほとんど勉強せず、遊んでいたと言われている。
 しかも、フォーダム入学もウォートン転入も、完全なバックドア(裏口)だった。
 このことは、トランプが大統領になってから姪のメアリー・トランプの暴露本によって明らかにされている。それによると、宿題は姉がやり、SATは謝礼を払った替え玉受験で、フォーダム入学のために親はかけずり回った。ウォートン転入にいたっては、完全にカネによる裏口入学だった。
 トランプの腹心で元顧問弁護士のマイケル・コーエンは、トランプの学歴と成績を世間に知られないように尽力し、2015年にはフォーダム大学に対し、トランプの成績証明書を公開すれば法的措置を取ると脅したことを認めている。

(つづく)

 

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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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