連載60 山田順の「週刊:未来地図」 バブル崩壊、そして巨額流出 仮想通貨ははたして未来の通貨になり得るのか? (後編・下)

将来のデジタル通貨をめぐる覇権争い

 はたして、デジタル通貨の発行権は、今後、誰が握るのだろうか? 世界の銀行家の出資によるFRBのような資本家の機関か、それともやはり主権国家か、それともいまのままのような法定通貨と仮想通貨の共存が続くのか? いまのところはわからない。
 ただ、日本のように安易に仮想通貨を認めるような“お人好し政府”では、このかたちを変えたグローバリズムの覇権競争に勝てないのは確かだ。仮想通貨は、世界中の政府に通貨発行権を放棄させるための1つの実験という見方がある。
 仮想通貨取引所大手のコインチェックから大量の仮想通貨「NEM」(ネム)が流出した事件で、セキュリティーの甘さが指摘されているが、仮想通貨の問題はそんなところにあるのではない。将来、通貨がすべてデジタル化されるとき、その発行と管理を誰がやるのか? それが最大の問題である。

規制がゆるい国と規制が厳しい国

 現在、世界各国政府の仮想通貨に対するスタンスは、それぞれ違っている。アメリカは、仮想通貨の取引は認めている。しかし仮想通貨を通貨とは認めておらず、ビットコインのマイニングには活動時点での市場価格により課税している。
 仮想通貨市場がいっとき盛り上がりを見せていた中国では、昨年9月、政府がICOの全面禁止を発表し、取引所での交換を停止させたので一気にブームが去った。ICOとは「initial coin offering」(イニシャル・コイン・オファリング)のことで、直訳だと「新規コインの売り出し」になるが、「仮想通貨を用いた資金調達」が実際の意味だ。
 新規事業を始めたい会社やスタートアップは「トークン」と呼ばれる独自の仮想通貨を発行し、これを投資家に販売して資金を集める。このトークン購入に使えるのは、「ビットコイン」や「イーサリアム」といった主要な仮想通貨で、これを資金調達した側が指定する。これがICOである。
 トークンは仮想通貨取引所で売買できるため、投資先のサービスが発展すれば売却して利益を得られる可能性がある。となると、これは企業のIPOとは違って監査などは必要ないので、単なるカネ集めにすぎないとも言えるし、詐欺にもなりかねない。そのため、中国が真っ先に全面規制したのである。ちなみに、アメリカもICOについては厳しい規制を設けていて、トークンは有価証券であるとしている。
 このようにICO規制などをめぐって、世界各国の取り組みを見ていくと、仮想通貨に寛容な国と厳しい国に2分される。韓国は法規制がほとんどない寛容な国だったが、ICOと取引所のレバレッジ取引に関する規制導入に転じている。シンガポールも規制がゆるかったが、ICO規制に乗り出した。アジアでは、インド、タイ、マレーシア、インドネシアは厳しく、唯一ベトナムがゆるい。ベトナムはゆるいというか、まだ規制が整っていない。

注目されるエストニアとスウェーデンの取り組み

 では、欧州はどうだろうか? EUは単一通貨圏なのにもかかわらず、各国のスタンスは違っている。各国とも仮想通貨の取引は認めているが、ドイツやフランスには厳しい規制がある。
 EUから離脱することになっている英国は、ロンドンがオフショアセンターであり、世界各地のタックスヘイブンとネットワークしているため、規制はゆるい。ICO自体を規制する法律はなく、金融取引にはほぼ既存の法律が適用されるだけである。
 そんな欧州で、特筆すべきなのが、エストニアとスウェーデンの取り組みだろう。
 世界一の「eガバメント」を実現させたエストニアでは、世界中から資金調達を容易にしようと、国家としては世界初のICOができるデジタル通貨「エストコイン」(Estcoins)を発行する計画を、昨年8月に公表している。もちろん、欧州中央銀行(ECB)は「ユーロ圏の通貨はユーロ。加盟国はその国独自で通貨を発行することはできない」と牽制した。ただ、エストニアのような小国は、これを本気でやる可能性がある。
 世界でもっともキャッシュレス化が進むスウェーデンは、2018年末に、デジタル法定通貨「eクローナ」(e-krona)を発行する計画で、現在、実証実験を続けている。eクローナはスウェーデン国立銀行が発行しスウェーデンクローナに対応するというから、世界初の国家が発行する仮想通貨になる。
 こうしたなかで、注目されたのが、ドイツ連邦銀行(中央銀行)のヨアヒム・ビュルメリング理事が、この1月15日にドイツ国内のフォーラムで、こう発言したことだ。
「仮想通貨の国ごとの規制は国境のない仮想社会では実施が難しいので、世界
規模で行うべきだ」
 まさに、正論だが、各国それぞれの事情があるなかで、これができるかどうかはなんとも言えない。
 ただ、ここで再度述べておきたいのは、わが日本国が、おそらく世界でいちばん仮想通貨に関して規制がゆるいということだ。2017年4月に施行された、いわゆる「仮想通貨法」(改正資金決済法)という法律があるが、このなかにICOに関する規制はない。日本は、仮想通貨を通貨として認めている、世界でも珍しい国なのである。

仮想通貨は詐欺。
最終的にドルがデジタルに

 知る人ぞ知る「ウォール街のオオカミ」(Wolf Of Wall Street:ウルフ・オブ・ウォールストリート)ことジョーダン・ベルフォート氏が、ビットコインに関して述べたインタビューを最後に紹介したい。ベルフォート氏は、はっきりと「ビットコインは詐欺的だ」と述べている。これは、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが「ビットコインは詐欺だ」と発言したのと同じ見解だ。
 ベルフォート氏は1999年に相場操縦などを行い、マネーロンダリングやこれに関連する詐欺罪で22カ月間、投獄された。2013年に公開された映画『The Wolf of Wall Street』のモデルである。つまり、自身が詐欺師だっただけに、その発言は確かだ。

「Bitcoin Is a Fraud, ‘Wolf of Wall Street’ Jordan Belfort Proclaims」(The Street)
https://www.thestreet.com/story/14320675/1/bitcoin-is-a-fraud-says-wolf-of-wall-street-jordan-belfort.html

「ビットコインはハッキングなどによる消失盗難の恐れがあり、大金をつぎ込むべきではない」
「ビットコインの通貨としての性質は人工的につくられたプログラムだ。ビットコインの価格も人為的に操作されたもので、一時的に急騰した後にクラッシュする」
「ビットコインの乱高下を防ぐために中央銀行の介入が必要だ」
「ビットコインは裏付けのない人工的なプログラムであり、持続できると思えないし奇妙だ」
「仮想通貨は中央政府によって支持されている場合にのみ社会に受け入れられ
る」
「中央銀行やコンソーシアムが仮想通貨を発行して、それが成立するのは時間の問題だろう」

 私の予想では、最終的には、アメリカのFRBがドルをデジタル化して仮想通貨を駆逐してしまうと思う。そうして、基軸通貨による世界覇権を維持するだろう。また、ドルと仮想通貨との交換を停止させてしまうという手もある。中国もマイニング大国だけに、仮想通貨による覇権を狙う可能性があるが、人民元の現状では無理だろう。
(了)

 
 
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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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