米大統領選の最大の争点となった「移民問題」 トランプ断然有利とされるが大波乱も!(中2)

難民、亡命者保護はアメリカの義務

 かつてNYに取材旅行、あるいは個人で旅行に行ったとき、私はここか「キタノホテル」のどちらかに泊まった。ミッドタウンのこの界隈は、じつにNYらしい地区だが、いまでは不法移民があふれて、路上で暮らしている人間もいる。
 NYでは、「シェルターの権利」という裁判の事例により、市は滞在場所を求める人間には寝る場所を提供しなければならないことになっている。
 そのため、不法移民にとっては天国である。
 アメリカ国内に入った難民は、ほとんど亡命を申請する。亡命なのか難民なのかは、その人間が申請をした時点で、どこにいるかによって決まる。申請時にアメリカ国外にいる場合は「難民」認定の申請となり、入国している場合は「亡命者保護」認定の申請となる。どちらの場合だろうと、アメリカは保護しなければならないことになっている。
 「自由の国」「人権の国」「民主主義の国」アメリカでは、いかなる差別も許されないのである。リベラルな人々は、この理念を実行することを求める。しかし、それは単なる「過保護」ではないだろうか。

犯罪の増加に州知事も市長も規制を強化

 難民申請、亡命申請中の滞在者は労働が許可されない。そのため、カネに困ると犯罪に走る例が多い。「NYタイムズ」の記事によると、2019~2023年半ばにかけて、NY市の窃盗増加率は64%に上った。
犯罪の増加にたまりかねたホークルNY州知事は、2月中旬、クイーンズ区を訪れ、小売店での万引き、窃盗急増を食い止めるための取り組みをアピールした。
 これは、万引きで1度捕まった者が、再度同じ店に来店した場合、不法侵入の通知を出して逮捕できるようにする試験的なプログラムである。これに、クイーンズ区内の約320店の小売店が登録した。
 また、ホークルNY州知事は、3月6日、市の地下鉄の警備強化のための警官250人を増員するとともに、750人の州兵も投入することを発表した。地下鉄での犯罪を防ぐために、主要駅の改札で荷物チェックなどを行うというのである。
 アダムスNY市長も、我慢の限界を超えたとし、移民の収容施設の外出禁止令の強化に踏み切った。収容施設滞在中の移民は、午後11時から午前6時まで外出禁止となった。

バイデンが「不法移民」発言を謝罪

 それにしても、「不法入国」だというのに、なぜ、アメリカはここまで移民に寛容なのか? 難民申請、亡命申請といっても、ほとんどが経済的理由によるもので、本来の迫害による難民、亡命ではない。
 しかし、民主党左派は、「ポリティカル・コレクトネス」(Political Correctness)を追求するあまり、経済難民までも受け入れてしまう。
 3月9日、バイデン大統領は、「一般教書演説」(7日)で南部ジョージア州の女子大学生殺害事件に言及した際に、「不法(移民)」という言葉を使ったことを後悔しているとMSNBCのインタビューで述べた。
 これは、「一般教書演説」の最中に共和党議員からヤジを飛ばされ、不法移民によって殺害された被害者に関して、「その通り、不法(移民)によってだ」と発言したことに対する謝罪である。
 民主党では、左派の議員たちの要望から「不法」(illegal)という言葉を使ってはいけないことになっている。不法移民というと、一般には「illegal alien」とか「illegal immigrants」などと呼ばれているが、これを「irregular」(非正規)とか「undocumented」(無登録、未登録、書類のない)とかにしなければいけないのだ。
(つづく)

この続きは4月8日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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