連載61 山田順の「週刊:未来地図」「#MeToo(ミートゥー)」ムーブメント続く 世界中、本当に「セクハラ」だらけなのか?(上)

 とどまるところを知らない「セクハラ」告発。毎週のように新しい「#MeToo(ミートゥー=私もそうだったわ)」が登場し、告発された男たちが退場しています。そして、今年からは「#Time’sUp(タイムズアップ=女性差別はもう終わり)」というキャンペーンも始まり、思いもよらない人物まで告発されています。本当に、世界中、こんなにセクハラが多いのでしょうか? 女性たちは、本当にこんなに被害にあっているのでしょうか? これまでの経過をまとめてみることにしました。

ゴールドメダリストも「#MeToo」の的に!

 最近の「#MeToo(ミートゥー)」ムーブメントでいちばん驚いたのは、平昌冬季五輪のスノーボード・ハーフパイプ男子で優勝したショーン・ホワイト選手(30)までがターゲットになっていたことだ。このアメリカのスノボ王者は、最後のトライで平野歩夢選手を抑えて逆転優勝し、その逆転劇に日本人は思わず頭を抱えたものだが、セクハラ訴訟を起こされていたとは知らなかった。
 金メダルを獲ったため、ショーンは、五輪独占中継局のNBCの朝番「Today」のインタビューを受けた。その際に、「(騒がれている件について)なにか言いたいことはありますか?」と突っ込まれたのだ。
 なにを突っ込まれたのかというと、「勃起ペニス写真を送りつけてきた」「スカトロ動画を見るように強要された」「露出度の高い服を着ろと言われた」と、彼がやっていたバンド「バッドシングス(Bad Things)」の女性ドラマーから訴えられていたことだ。この裁判は、2017年中に示談が成立していたが、ショーンのオリンピック出場が決まってから、メディアやSNSで蒸し返され、オリンピック中も騒がれていた。
  「ここ数年でボクは人として成長してきました。若いころの自分とは変わったと思います。現在の自分を誇りに思っています」と、ショーンは、神妙に質問をかわして、なんとかことなきを得たが、ゴールドメダリストがとんでもない「セクハラ男」だったいう印象は拭えなかった。しかも、NBCの「Today」といえば、後述するが、昨年の11月に、看板キャスターのマット・ラウアー(59)が、「#MeToo」の洗礼を浴びて降板になっているのだから、なんとも言いようがない。
 そこで、「#MeToo」とはいったいなにか? あらためて振り返ってみることにしたい。

ハリウッドの大物のスキャンダルが発端

 発端は、昨年の10月初旬、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴィー・ワインスタイン(65)が、30年にわたり、女優やモデルたちにセクハラや性的暴行をしていたことが発覚したこと。発覚させたのは、「NYタイムズ」紙と「New Yorker」誌。この2媒体の記事は、日本の「文春砲」の比ではなく、10月のアメリカのメディアは、この件でもちきりになった。
 このとき、私はニューヨークに滞在していたので、毎日のように、この報道に接して、ワインスタインというのはとんでもない男だということを知った。ワインスタインのスキャンダルは、グウィネス・パルトロウ、アンジェリーナ・ジョリーら複数の女優が被害者として名乗り出たことで、拡大した。
 そして、アリッサ・ミラノが、友達から提案されたとして、セクハラ被害者は「#MeToo」とリプライするようツイートしたことで、「#MeToo」ムーブメントとなった。
《If you’ve been sexually harassed or assaulted write ‘me too’ as a reply to this tweet. (もしあなたが性的嫌がらせや虐待を受けたことがあったなら、このツイートに‘me too’と書いてリプライして)》
 「MeToo(私もよ)」というのは、まさにズバリの表現で、これで女性たちの共感と連帯の輪が一気に広がった。レディー・ガガやパトリシア・アークエット、デブラ・メッシングなどが、「MeToo」にハッシュタグ(#)を付けてアリッサのツイートにリプライした。

「#MeToo」の次は「#Time’sUp」に!

 こうして「#MeToo」ムーブメントは、全米、いや世界中に拡大していき、今年から「#Time’sUp(タイムズアップ)」キャンペーンとなった。今年の元旦、「NYタイムズ」紙に、ハリウッド女優など300人余りが、全面広告を掲載し、こう呼びかけたのである。
  《男性中心の職場で昇進して認められようとする女性たちの闘争はもう終わらなければならない。突き破ることのできない(男性)独占の時間は終わった》
  「Dear Sisters」と題されたこの全面広告は、農業に従事する女性、工場で働く女性といった、セクハラを受けてもうやむやにされがちな職業の女性たちへの支援を表明し、有色人種、移民、レズビアンやバイセクシャル、トランスジェンダーなどあらゆる立場の人への平等な労働環境も求めるものだった。
 300人のなかには、リース・ウィザー・スプーン、エマ・ストーン、メリル・ストリープ、エマ・ワトソン、ブレイク・ライヴリーなどがいたから、そのインパクトは大きかった。また、ナタリー・ポートマンがこのためにインスタグラムのアカウントを新設してまでサポートした。
 そして1月7日、第75回ゴールデングローブ賞」の授賞式では、多くの女優がセクハラに抗議するためにブラックドレスを身にまとい、その1人、「Cecil B. DeMille Award(セシル・B・デミル賞:生涯功労賞)を黒人女性として初めて受賞したオプラ・ウィンフリーが、こうスピーチした。
《Too many years in a culture broken by brutally powerful men. For too long, women have not been heard or believed if they dare speak the truth to the power of those men. But their time is up. Their time is up.(そういった男性たちの野蛮な力に対し女性たちが勇気を出して真実を語っても、誰にも聞いてもらえず、信じてももらえない。そんな時代があまりにも長く続きました。ですが、そんな時代はもう終わるのです。タイム・イズ・アップ! 彼らの時間は終わるのです)》
 「Time’s Up(タイムズアップ)」とは「時間切れ」。要するに、セクハラはもう終わりというこ
とだ。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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