連載118 山田順の「週刊:未来地図」日本経済SOS(2)経済成長は限界 生産性の向上、AI、移民に頼らないでダウンサイズを(下)

いまある大学を半数に小中高もどんどん潰せ

 これまでの日本経済は、すべてが成長を前提としている。だから、なにかことが起こると、すべてを助けようとしてきた。半導体産業が凋落すると、産業革新機構のような機関が公的資金を使って救済に乗り出した。中小企業の倒産が相次ぐと見込まれると、政府は金融機関に借金の返済を猶予する措置を実行するように迫った。
 これらの処方せんは、すべて間違いである。なぜなら、経済合理性を無視しているからだ。
 これは教育においても同じである。現在、1年間に生まれる子どもの数は100万人を切っている。それなのに、日本には大学が、星の数ほどある。いまや、選ばなければどこかの大学に入れる「大学全入時代」になってしまった。
 そこで、これらの大学をせめて半分に減らすべきだ。
 2017年度の日本の大学数は764大学、2307学部5146学科もある。その内訳は、国立大82校、公立大87校、私立大588校である。いずれも、税金が注ぎ込まれている。よって、この半数を潰すべきである。
 大学と同じく、小学校から高校までも、人口減に合わせてダウンサイズし、潰すべきところは潰すべきだろう。このネット時代に、過疎地にハコモノの学校はいらない。

地方創生など無意味田舎は田舎だからいい

 安倍内閣は2014年から「地方創生」というスローガンを掲げ、地方経済の活性化に乗り出した。いまでは、「まち・ひと・しごと創生会議」という会議が内閣府に置かれ、地方での起業や就業を後押している。
 といっても、中央の税金を主に地方から提出された「まちおこし」や「地域活性化」の計画にばらまくだけのことである。人口減に悩む自治体は、ともかく人が欲しいから、都会からの地方移住者を歓迎・募集する。これに国が補助金を出し、移住者の生活費を負担する。
 いったい、こんなことをして何になるのだろうか? こんなことをいくらしたからといって、日本全体の人口減は解消されない。人が移動するだけだ。
 地方創生が哀しいのが、それにより、日本全国の多くの自治体で「ゆるキャラ」が乱立し、「B級グルメ」ができてしまったことだ。さらに、「ふるさと納税」などというバカバカしい制度もでき、「地域振興」と称して「プレミアム商品券」というマヤカシにすぎない金券がばらまかれるようになった。
 また、中央からコンサルタントや代理店が出向き、シャッター通りの活性化などを提案すると、それに自治体は予算をつけて、かえって財政の悪化を招いてきた。
 地方が本当にしなければいけないことは、経済再生ではない。「どのようにうまく衰退していくか」を考え、それにより、経済を縮小しながら、住民の生活を維持していくことだ。
 地方での豊かな暮らしも、ダウンサイズをきちんと実行すれば可能だ。「くまもん」のようなゆるキャラをつくっても、成功するのはごく一部の自治体だけ。それなら、経済規模を縮小して、田舎は田舎らしくしたらどうだろうか?
 地方とは田舎である。田舎とは都会より不便で人が少ないということである。しかし、自然に恵まれている。環境は抜群だ。それのなにがいけないのだろうか?
 都会は便利で人も多く、仕事もサービスもあるが、豊かな自然もなければ人情も薄い(とされる)。田舎と都会は本来違うものだ。
 しかし、これまでの日本、とくに1990年ごろまでの日本は経済全体が成長してきたから、成長神話に毒されて、田舎と都会の違いをなくす政策ばかりが実行されてきた。そうして、いま私たちの目の前にある「日本」という国ができあがった。
 しかし、成長が止まれば、全国均一に成長の恩恵を受けられない。いまこそ、ダウンサイズすべきなのだ。

本当に意味での働き方改革をすべき

 人口減社会に転じた日本は、もう無理する必要はない。自然に任せて、経済合理性に適した社会改革を行なっていけばいい。ともかく、公務員が民間より給料が高く、終身雇用に守られているシステムは一刻も早く変えねばならない。給料報酬を成果主義に転換し、全体で3分の1の人員をリストラすべきだろう。
 公務員のシステムが変わらなければ民間は変わらない。「終身雇用・年功序列」「日本的経営」「日本型資本主義」などというのは、いずれも日本が高度経済成長をしていたときにできたもので、人口増が可能にしたシステムである。年金制度もそうである。
 それを人口減に転じた現在、後生大事に守っていくことは社会的コストがかかりすぎ、経済的に非効率である。よって、これらをすべて破壊し、成果給を導入、同一労働同一賃金を実現させなければならない。

 たとえば、アメリカでは労働者は、大きく分けて2つしかない。時間給で報酬が支払われる「時間給労働者」と、こなした仕事の成果で報酬が支払われる「成果給労働者」だ。ここには年功序列も終身雇用も、また、正規雇用と非正規雇用という差別はほとんどない。
 現在、「経済成長なんか目指す必要はない」という意見が、主にリベラル、左派の人々によって唱えられている。彼らは物質的な豊かさよりも精神的な豊かさが大事だと主張し、日本は「心豊かな成熟社会」を目指すべきだという。
 ところが、それを目指すために、中小企業や学校を減らし、さらに労働者を減らしてダウンサイズをすべきだと主張すると猛反対する。本当に不思議である。
 かつてロイターのコラムニスト、ジェイムズ・サフト氏は、「日本経済に成長は必要か」(2016年5月27日、日本版)という記事のなかで、「日本は成長不在のまま生きていく最善の方法を見つけるべき」と述べた。また、ヘッジファンドの経営者でSLJマクロ・パートナーズのエコノミストでもあるスティーブン・ジェン氏の次のようなクライアント向けのレターの言葉を紹介している。「日本は経済成長する必要があるのか。私たちの答えはノーだ。実質GDP成長率で測定する場合、もし人口が減少しているのであれば、生活水準を改善するために日本が全体として長期的に成長する必要があるなどとは、とても考えられない」
(了)

column1

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com