連載122 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(2)(中) どうなる? 米中貿易戦争の行方と日本への影響

マイクロン制裁とテスラ上海工場の開設

 北京政府は、“自称天才”トランプが率いるワシントン政府に比べたら、ずっとしたたかである。
 それは、ZTEの制裁解除の前、7月5日に、福州市の中級人民法院が、米マイクロン・テクノロジーに対して、DRAM(随時書き込み読み出しメモリ)やNAND型フラッシュメモリなどの半導体の生産・販売差し止めを命じたことでわかる。
 中国は現在、世界の半導体の約60%を消費している。半導体なくしては、ハイテク産業は成り立たない。それなのに中国は半導体生産では大きく遅れをとっていて、その80%以上を輸入に頼っている。なかでもDRAMは1個たりともつくることができず、100%輸入に頼っている。
 このDRAMの輸入先がマイクロンなのである。マイクロンの半導体はその51%が中国向けである。とすれば、中国から生産・販売差し止められれば、マイクロンはたちまち危機に陥ることになる。
 ちなみに、DRAMは韓国のサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社で世界シェアを独占している。中国としては韓国勢に仕入れ先を変えることは可能である。
 マイクロンに対する制裁とZTE制裁解除がリンクしているのは間違いないだろう。中国はそこを突いてきたのだろう。
 中国は現在、「中国製造2025」の最大の柱として、一刻も早く半導体生産を強化しようとしている。半導体事業の自給自足体制を構築しようとしている。そのため、現在、福建省晋江市など3カ所で、次世代NANDメモリーやDRAM工場が建設され、来年には生産に入ることになっている。そうなれば、いずれマイクロンのDRAMは必要ではなくなる。
 中国は、このようなアメリカに対する揺さぶりと並行して、懐柔策にも出ている。その1つが、7月10日に、上海にイーロン・マスクを呼んで発表した、テスラの年産50万台という大規模工場建設の発表だ。これで、上海のステラの電気自動車工場ができることになった。
 中国では、これまで自動車メーカーの進出は、中国企業との合弁以外は許されなかった。それが今回はテスラの100%出資を許したのである。ただし、これは電気自動車の分野で、アメリカの技術を移植するという“トラップ”の可能性もある。

中国発の第2のリーマンショックが起こる

 それでは、この米中覇権戦争は今後どうなっていくのだろうか? 長期戦になることは間違いないようだが、はたして、アメリカが思惑通り、中国の挑戦を退けることはできるのだろうか? ということを考えてみたい。
 現在、大方の見方は「中国が圧倒的に不利」である。
 なぜなら、中国経済はいま、明らかな下降線に入っているからだ。そうであれば、いくら北京がしたたかといっても、アメリカの攻撃に持ちこたえられないだろう。
 私がもっとも信頼している中国の専門家・近藤大介氏は、「最近の中国メディアは、しきりに経済が好調だという報道をしています。これはおかしい。必死に景気の悪化を隠そうとしているしか思えませんね」と言う。中国の報道には、凶作隠しの“豊作報道”がよくあるのだという。
 実際、中国の景気は今年に入って悪化している。そのため、金融危機が公然と囁かれるようになった。すでに中国では「三殺」が起こっていると伝えられる。「三殺」とは、株式市場、債券市場、為替市場の3つの市場が、すべて落ち込むことを指している。
 そんななか、6月25日に発表された経済論文が、各方面に大きな衝撃を与えた。発表したのは、中国政府の国家金融・発展実験室で、そこの李揚理事長が3人の研究員と共同で執筆したもの。タイトルは「金融恐慌の出現を警告する」で、その内容は、「いまや中国に、かなり高い確率で金融恐慌が出現するだろう」と断言したものだった。
 要するに、中国発の第2のリーマンショックが起こると警告したのである。これに驚いた当局は、ネットからこの論文を削除したという。
この論文は、「現代ビジネス」のサイトの近藤大介氏の記事「習近平の金融ブレーンが告発! 中国発の金融恐慌は必ず起こる」のなかで、全文和訳されているので、興味のある方は読んでみてほしい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56377
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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