クライシスマネジメント(1):学校での惨劇…子どもとどう向き合うか

 
 立て続けに起きる学校での銃乱射事件のニュースに、不安を抑えきれない保護者も多いだろう。銃規制が声高に叫ばれても、今、通学する子どもたちの、今日明日の安全確保にはとうてい間に合わない。銃乱射事件に限らず、安全を脅かす事件が身近に起こる可能性はいつでもある。遠くで起きた事件でも、テレビを通して流れるニュースに子どもが不安を訴えることもあるだろう。事件以外でも、子どもは様々なストレスにさらされている。不安やストレスへの対処方法を英語でコーピングストラテジー(Copings Strategy)といい、その兆候が顕著に現れたときの対処方法をクライシスマネジメント(Crisis Management)という。その際の心構えについて数回に分けて紹介する。

学校との連絡網をしっかりと確保しておく

 学校は、保護者が携帯電話を持っていることを前提に連絡方法を設定している。入学するとペアレントコーディネーターやPTAから、電話(テキスト)番号やEメールアドレスの登録、学校と家庭をつなぐアプリなどに登録するよう案内がくる。特に学校からの緊急のお知らせは携帯へのテキストが主流になっている。面倒がらずに必ず登録しておこう。学校で事件が起こったときに様子を知ろうと電話をしても、職員が1人ひとりに対応するのは不可能だ。
 マンハッタン区ハドソン川沿いのスタイブサント高校のすぐそばで昨年10月、トラックによるテロ事件が発生した際は、校舎も周辺道路も一斉に封鎖され、保護者は一時、同校のそばに近づけなかった。しかし学校側はただちに保護者に対しテキストで、校舎の閉鎖が解けるまで3時間にわたり逐一状況報告を行ったため、多くの保護者は落ち着いて対応することができた。

大げさと思わず早めに対応を

 幸い高校への直接の被害はなかったが、授業が終わった直後の時間帯で、校舎内に残っていた生徒と帰宅途中の生徒が周囲に大勢いた。中には犯人の姿を目撃したり、銃声を聞いたりした生徒や、警察が犯人を逮捕する場面や、周囲の騒然とした様子を目の当たりにした生徒もいた。学校の対応は早く、翌日予定されていた試験は中止、宿題もなくなり、登校に怯える生徒には自宅待機が許された。翌日には保護者に向けて、専門家による生徒のメンタルケアワークショップが開催された他、スクールサイコロジストも一時増員して生徒の心のケアに当たった。
 ほとんどの生徒は直接事件に関することを見聞きしたわけではない。帰宅後も普段通りだったが、数日経ってからなんとなくいつもと違う言動や様子に気づき、スクールサイコロジストに相談したという保護者もいる。

家庭で子どもとどう向き合うか

 他州の学校で起きた惨劇であっても、動揺は大きい。毎日とめどなく流れてくる映像の臨場感は昔の比ではない。ささいな変化でも、大げさだと思わずにしっかり向き合うことが大切だ。登校をしぶるなどの変化が見られたら、「少し休ませて、様子を見よう」などと悠長に構えるのではなく、すぐに学校に相談しよう。
 ニューヨーク市教育局のオフィス・オブ・セーフティー・アンド・ユース・デベロップメント(Office of Safety and Youth Development=OSYD)のウェブサイトでは、「Helping Your Child Cope with a Traumatic Event: Guide for Parents(トラウマになるような事件が起きたときの子どもへの対応方法:保護者へのガイド)」として、アメリカン・サイコロジカル・アソシエーション(American Psychology Association)のウェブサイトの記事を紹介している(www.apa.org/helpcenter/aftermath.aspx)。

▼子どもとしっかり話す
 子どもが感じていることを口に出して話し、表現できるようにする。子どもが、保護者が「自分の話を聞いてくれる」「興味をもっている」と安心することが重要。無理やり話を持ち掛けるのではなく、リラックスして話せる環境を作る。子どもの意見だからと否定せずに聞き、保護者もきちんと自分の意見を述べるのも話しやすい環境作りにつながる。

▼家庭が安全な場所だという意識を持たせる
 何があっても家の中は快適かつ安全で楽しい場所であり、「心配することは何もない」と子どもが感じられるような環境を作る。

▼子どものストレスや不安のサインを観察する
 眠れなくなる、勉強が手につかなくなるなど、言動が変化するのは大人も子ども自然なこと。不安のサインが消えるまで数カ月かかることもあるが、そういうときにこそ、子どもが感情を発散できるように努める。絵を描かせることも有効だ。

▼ニュースが目に入らない時間を作る
 子どもだけでなく、保護者もニュースやインターネット、新聞から離れる時間を作り、趣味に打ち込んだり自分の内面と向き合ったりする時間を作る。

▼保護者自身のケアも忘れない
 保護者自身のケアをしないと子どものケアはできない。食事、エクササイズ、仕事など日頃の生活のリズムをなるべく崩さないようにし、「親と一緒にいれば安心」と分からせる。

参考になるサイト

■NY市教育局OSYDのページ
 http://schools.nyc.gov/Offices/OSYD/
 Resources+to+Support+Children-.htm

■National Child Traumatic Stress Network
 トラウマにさらされた子どもたちへのケアや治療、支援をする全米規模のネットワークと有益な情報
 https://www.nctsn.org

■NYCWELL
 ケースワーカーやカウンセラーがストレス、不安、うつ、育児、教育、家庭、薬物中毒などさまざまな問題に関して電話、テキスト、チャットで対応する。日本語通訳も頼める(24時間、無料)。
 https://nycwell.cityofnewyork.us/en/
 電話 1-888-NYC-WELL
 Text 65178へ「WELL」とテキストする
 携帯、コンピューターからのチャットあり

(文・河原その子)