連載166 山田順の「週刊:未来地図」 社会を分断する「人種差別」の罠(上) 「人種により知能は異なる」という不都合な真実

 トランプ大統領が登場して以来、「分断社会」(divided society)という言葉がさかんに言われるようになった。公共の場で人種差別発言や女性蔑視発言を平気でするような人物だから、アメリカはもとより、全世界的に社会の分断化は進んでいる。これが続くと、人々は自分と他人の違いばかりに目がいき、その結果、全世界で「憎しみ」が増長されかねない。
 そこで、今回から、タブーとされている人種問題を真正面から論じてみようと思う。最初は、誰もが言うのをためらう「人種により知能は異なる」という「不都合な真実」だ。

人類は単一種人種分類に意味はない

 日本は人種差別のない国だといわれる。しかし、それは単に日本には、黄色い肌、黒い髪、黒い目の「日本人」という人種が圧倒的に多いから、異人種が共存するような国、とくにアメリカのような国とは違うというだけの話だ。実際、日本人は、自分たちと違う肌の色をした人々を「差別」(区別)するし、社会的に受け入れようとはしない傾向がある。その意味で、アメリカのように社会が分断されていく心配はないかもしれない。
 しかし逆に、そういう試練を乗り越えていかないことで、今後の人類社会からズレていくのではないかと思う。現代では「人はみな平等」が原則である。だから、そういう社会づくりを意識しないといけないのではないかと、私は常々考えている。
 いずれにしても、ここで大前提として述べておきたいのは、「人種」(race)というのは人間が勝手につくった「分類」(クラス分け:classification)で、その分類にはほとんど意味がないということだ。もちろん、分類するにはそれなりの理由がある。しかし、人種という分類には、科学的な根拠がない。なぜなら、いま地球上に生きている私たちは、生物学では、黒人もイエローも白人もみな「ホモ・サピエンス」(Homo sapiens)という単一種だからだ。
 人類の歴史を振り返れば、白人もイエローももとはみな黒人である。このことは、このコラムの後半で詳しく説明したいが、まず大前提として、人種は肌の色などの「見た目」(appearance: アピアランス)からつくられた「単なる分類」にすぎないと知っておいてほしい。

白人は黒人より知能が高いという研究結果

 ところが、その見た目によって人種差別が始まり、欧州が世界史で優位に立って以来、「白人至上主義」(white supremacy)が世界中に広まって現在に至っている。なにしろ、かつてアフリカの黒人は「人間ではない」と、奴隷にされたのである。
 このような忌まわしい歴史から、人種差別は否定されてきたが、トランプなどの言動を見ているといまも根強く生き残っているのがわかる。しかも、人種による知能の差異の研究が進んだことで、かえって人種差別を肯定するようなムードまである。「黒人は白人より劣っている」と、口には出さないが、そう思っている人は多い。
 「不都合な真実」という言葉があるが、じつは「黒人は白人より劣っている」ということは、知能に関しては真実である。「知能が人種によって異なる」ということは、残念ながら真実なのだ。
 この真実を最初に学術的に明らかにしたのが、アメリカにおいては、心理学者でUCバークレーの教授アーサー・ジェンセンだった。1969年、ジェンセンは知能と遺伝に関して調べた結果、「IQと学業成績をどれほど増進できるか?(How Much Can We Boost IQ and Scholastic Achievement?)」という論文を発表した。この論文では、知能を「記憶能力」(レベルI)と「概念理解」(レベルII)に分けていて、レベルIの知能はすべての人種に共有されているとしたが、レベルIIの知能は白人とアジア系が、黒人やメキシコ系(ヒスパニック)に比べて高いとしたのだ。
 アメリカで「公民権法」(Civil Right Act)が成立したのが1964年、国連で 「人種差別撤廃条約」(あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約:International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination=ICERD)が採択されたのは1965年だから、この論文は猛烈な批判にさらされた(ちなみに、国連の「人種差別撤廃条約」のアメリカの批准は1994年で、日本の批准はその翌年の1995年である)。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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