アメリカの児童相談所(3)米国で虐待と 誤解されないために

 
  前回まで2回に分けてCPS(Child Protect Service、地域によって呼称が異なる場合あり)と呼ばれる、米国の児童相談所に当たる機関が、児童虐待の通報を受けたときにどのように動くか(7月号)、実際に調査員が家庭訪問した際の調査内容と、初期対応の注意点(8月号)を紹介した。米国でCPSの調査対象となるのは児童虐待(Child Abuse)と育児放棄(Child Neglect)だ。文化や慣習の違いから、日本では当たり前のことが、米国では通報の対象となる場合もある。

日本では当たり前でも米国で虐待とみなされること

日本では当たり前のことなのに、米国では児童虐待や育児放棄とみなされる代表的な例を挙げる。

①親子での入浴
 同性、異性関係なく親子が一緒に裸で入浴することは、幼児であっても、他人がそれを知れば赤信号だ。 乳児の場合はまだしも、プリスクールなどに通園する年齢になり、子どもは楽しいことだと思って話すことが、教師の耳に入ることもある。そのような場合、その場で保護者に連絡せずに通報される可能性もある。日本からの祖父母や親戚の訪問時なども気をつけよう。米国では入浴介助は乳幼児であってもバスタブの外から着衣の親が手伝うのが基本だ。同様に同性であっても子どもの前で大人が裸になることは、たとえそれが日常の着替えであっても歓迎されない。

②添い寝(co-sleeping)
 同じベッドで寝ることは親子の絆を強めることになるとして、米国でも専門家にも認められ、取り入れる家庭も増えているが、ある程度の年齢以上になると誤解を受けやすくなる。同じ部屋で寝ることと、同じベッドの中で一緒に眠ることは聞いた方も印象に大きな差がある。特に異性の親子間で日常的に同じベッド、同じマットレスを共有していると米国人が知れば性的虐待ととられる危険性がある。

③留守番とおつかい
 7歳ぐらいまでは1人で留守番をさせたり、おつかいに行かせたり、通学させたりするのは厳禁。公園や車の中で待機させるのもいけない。小さな子どもには判断能力がないこと、米国では誘拐など子どもを巻き込んだ犯罪が多いことを常に念頭に置くべきである。原則は「子どもを大人の目が届かない状態に置かない」ことだ。親が目を離したのがたった10秒でも事件や事故が発生しているように、「絶対に大丈夫ということはない」との認識を持つべきである。事件や事故が起きたときその責任を放棄したとして保護者は追及される。その厳しさは日本の比ではない。

④不登校になる、たびたび学校を休む
 不登校は日米共通の問題だ。しかしそれについての対応は日米で真逆といってよいかもしれない。日本では無理して通学させず、代替案を講じないまま不登校が長期化している家庭も多い。根底にあるのは子どもの気持ちに向き合い、「通学を画一的に強制しないほうがよい」との認識かもしれない。子どもの福祉を最優先とする米国の児童保護法でも、最終的には子どもにとって最善と判断されれば、法制化された、自宅を拠点に学習する「ホームスクール」制度の利用も含め、通学を画一的に強制するものではないが、そこに到達するまでの過程は非常に厳格だ。日本のように教師と相談しながら保護者の判断で長期にわたり休み続けることはできないし、勉強を続けないことに関して寛容ではない。基本的に日本のような形での学校環境を長期間離れたままでの不登校はない。年齢や引きこもりの状態によっては、通学や勉強の継続を拒否する子どもに対しCPSが家庭裁判所へ申し出て裁判所が介入し、登校命令が出されることもある。
 不登校問題については改めて紹介するが、医師の診断書提出など正規の手続きなしに休みが続いた場合、たとえ保護者が子どもの状態を学校側に伝えていたとしても、学校側は子どもの状態を確認するためにCPSに連絡することが義務付けられ、CPSは家庭を訪問して子どもと面会しなければならない(米国には教師の家庭訪問はない)。その際は親の児童虐待・育児放棄の疑いとしての訪問になる。これは書面上のことだが、CPSの立場としては事前にこれらの疑いで通学できていない可能性がゼロとは証明できないので、訪問時に「育児放棄の疑い」と書かれたレターを見せられてショックを受けるかもしれないが、前回述べたように冷静に対応しよう。
 子どもが学校へ行くことに難しさを訴えた場合、「少し休ませて様子をみよう」ではなく、早めに学校に相談することをお勧めする。保護者が不登校問題に積極的に関わり、サポートの姿勢を見せることは後々、重要な意味を持ってくる。

子どもの単独行動が許される年齢は各州で異なる

 子どもを単独行動させてよいとされる年齢は、ほとんどの州では決まっていない。実年齢よりも身体的・精神的成熟度が重視されるため、各州で目安はあるが絶対ではない。何かあったときは、最終的にはそのときの状況と子どもの状態で判断される。居住している自治体の規定を確認しておこう。
(つづく)
(取材・文/河原その子)