連載183 山田順の「週刊:未来地図」 2019年の世界はどうなる?(1の上)アメリカの「1極支配」が強まり、中国、ロシアは弱体化。欧州、日本も対米追従に回帰!

 年末になったので、この1年の世界情勢を振り返って今回から2回、来年以降の世界を考えてみることする。2018年はトランプというこれまでに類を見ない大統領に世界中が引っ掻き回された1年といっていいだろうが、すべてがこのトンデモ大統領の個人的な考えから起こってきたと考えると情勢を見誤る。もっとも注目すべきは「米中貿易戦争」だが、これはトランプが起こしたこととはいえ、必然的に起こるべくして起こったことである。なぜなら、これは大国同士の覇権をかけた争いだからだ。この覇権戦争は、当事国ばかりか全世界に影響を与える。世界情勢、世界政治は、ビジネス、投資にもっとも大きな影響を与えるファクターだからだ。したがってその分析を誤れば、ビジネスも投資も成功しない。

米中戦争は中国が覇権挑戦を諦めるまで続く

 まず述べておきたいのは、この世界がアメリカの「1極体制」(unipolar system)から「多極化」(multi polarizing)に向かっていないということだ。いま日本では「多極化論」が幅を利かせているが、現実世界をしっかりと捉えれば、世界は多極化などしていない。むしろトランプの登場でアメリカの世界覇権が強まり、再び冷戦終結当時の1極世界に向かっている。
 さらにもう1点、日本人として危惧しなければならないのは、安倍政権がいまだにこの情勢を認識せず、中国と再び友好路線に転じ、ロシアとは領土交渉を続けていることだ。なぜいまさら中国に接近しなければならないのか? アメリカが明確に中国を「安全保障上の脅威」と見なした現在、これを続けることは危険だ。ロシアに関しても、すでにウクライナ問題で経済制裁を課している陣営にいる日本がなぜ「北方領土を返してください」という“懇願外交”を続けるのか不明だ。
 はっきり言って、中ロ両国とこれ以上友好的になるのは無意味なうえ、経済的恩恵もない。「中国は経済において切り離せないではないか」という意見があるが、それは錯覚だ。今後、中国の政策は次々破綻する可能性が強く、経済はすでにピークアウトしている。上海からは続々と外国人が逃げ出している。在住日本人の数も5年前に比べて、1万人近く減っている。
 新聞や経済誌は「これ以上、米中関係が悪化すると世界経済に深刻な影響をもたらす」と書き、それによって株価が動いたりするが、こうした論調を信じてはいけない。今後、米中関係は絶対改善しない。それは明白である。そして、新冷戦は中国が白旗を揚げて覇権挑戦を諦めるまで終わらない。

中国はアメリカの「安全保障上の脅威

 というわけで、ここから、この1年を振り返る。
 先ごろ、ブエノスアイレスで行われたG20で、トランプと習近平主席が会談し、米中貿易戦争は「一時休戦」となった。アメリカは年明けに予定した対中追加関税の25%引き上げを当面凍結し、中国との知的財産権の保護強化などで協議を始めることになった。しかしその期限は90日で、中国がさらに大幅な譲歩をしなければ、米中戦争は再び激化する。もちろん、中国が譲歩してもアメリカは中国潰しを続けるだろう。
 ここに至る米中戦争は今年初め、トランプが中国製品に制裁関税をかけると言い出したことから始まった。が、これはトランプ個人の“思いつき”でないばかりか、看板政策 “アメリカファースト” の実行ですらない。アメリカはかなり以前から台頭する中国をどう叩くか考え続けてきたからである。すでに商務省は2017年4月から「通商拡大法232条」(Trade Expansion Act of 1962)に基づいて、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置の調査を進めてきており、その報告書を今年の1月に大統領に提出した。それを受けてトランプは、鉄鋼とアルミニウムの輸入増加が「安全保障上の脅威になっている」と判断し、3月に輸入制限を発動したのである。
 それに加えて、「通商法301条」(Section 301 of the US Trade Act of 1974)に基づいて、知的財産侵害を理由に対中輸入のうち500億ドル分に対して制裁関税を課すことにしたのだ。
 もちろん中国は反発した。対抗して同額の追加関税を課すとしたので、トランプはさらに2000億ドルの対中輸入に年内は10%の制裁関税(2019年以降は25%)を課すと脅し、実行したのである。これらの関税報復合戦は一見すると貿易戦争であり、アメリカの貿易赤字解消政策にみえる。しかし本質はそうではない。前記したようにアメリカは中国の拡大をはっきりと「安全保障上の脅威」とみたからだ。

中国が唱えた「G2」にアメリカが猛反発

 アメリカが中国に対する見方を大きく変えたのは、オバマ時代になってからである。それまではアメリカ企業が対中投資で儲けていたこともあり、中国を国際社会に「関与」(engagement)させることにより、責任ある「利害関係国」(responsible stakeholder)にしようとしてきた。つまり、いずれ中国も体制転換して自由主義社会、資本主義社会に組み込まれるだろうと楽観視していた。ところが、これが幻想にすぎないということがわかったのが、当時の胡錦濤主席が、いわゆる「G
2」(Group of Two)を提唱したからだ。G2とは、「米中2極体制」という意味。つまり、アメリカと中国の2国が対等な立場になり、世界を仕切っていこうということである。この「G2論」は、じつはアメリカ国内にもあった。しかし中国から持ちかけられるにいたって、さすがのオバマ大統領も目が覚めたのである。
 振り返れば、胡錦濤、習近平と2代にわたる中国のリーダーは戦略を誤った。鄧小平が口をすっぱくして言ってきた教え「韜光養晦」(とうこうようかい:能力をひけらかすことなく、控えめを旨とせよ)」を捨てしまったからである。とくに、習近平は独裁体制を強化し、「中国の夢」を唱え、「一帯一路」を促進し、さらに「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」を打ち出してきたので、アメリカは中国を潰す気になったのである。それを、トランプが実行し始めたというわけだ。
 なぜなら、中国潰しはトランプ共和党の政策ではなく、民主党も同調する超党派の政策だからだ。かつて、ヒラリー・クリントンはオバマ政権の国務長官のとき、「もはやG2は存在しない」と述べて、G2体制などあり得ないと明確に否定している。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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