Jayシェフ もう一度ニッポン〜20年ぶりの日本の生活〜 第11回 マスクが…

イラスト Jay

 20年ぶりの日本は不思議に思うことも多い。
 それも当然のことでこの国にはニューヨークとは違った習慣がたくさんあり、なかにはちょっと理解に苦しむこともある。そのひとつが街で頻繁に見かけるあの「マスク姿」。いつからこんなマスク大国になったのか、ぼくがまだ日本に住んでいた頃、マスクというのは風邪ひきか予防してるひと、花粉症のひと、もしくはごく少数の剃り込みリーゼントで何かとバリバリしていたツッパリのひとくらいなものだった。
 ところが、浦島太郎となって現在の日本へ帰ってくると、街中マスクをしている人だらけ。実に多い。いったい何が起きたというのだろう。
 マスクをしているのはサラリーマンや学生さん、おばちゃん、おじちゃん、年齢や性別に関係なく幅広いようだ。全員が風邪でもなさそうだし、悪事でも働いて世を忍んでいるのだろうか。う〜ん、それも無きにしもあらずかな、だけどこれほどの数のひとが忍んでいたらたいへんなことだ。ファッション? 皆んながぁ〜してるから?
 服装は個人の自由なのでもちろんマスクをするのも当然個人の自由。ただマスクをして顔が見えなくなるとひとの印象は随分と変わってしまうのもまた事実。目だけ出ている顔からは表情がうかがい知れず、ある種の威圧感みたいなものが伝わってきてしまう。早い話がどことなく不気味に感じてしまうのだ。こんなことを言ったら失礼かもしれないが、これもひとのごく自然な心理なので致し方ないと思う。いたるところでそんなマスク姿に出くわすと、日本の習慣をよく知らない海外からやって来た者にとって、一種異様な光景に映ってしまうことも確か。受付など公共機関でも普通にマスク姿で応対していることが多くこれもなんだか違和感がある。企業や団体の代表として前面で接客しているのにせっかくの笑顔をマスクで隠してしまうというのも如何なものか。
 それからマスク姿のドライバー。これがまたかなりのインパクトで、逃走中の銀行強盗みたいな怪しさを漂わしている。オマケになぜか怒ったような顔つきが多い今の日本の車。そんな所へ日本の交通事情をよく知らないよそ者がのんびり走っていようものなら、
「どけぇぇぇ!」
とばかりにデカいボックス車に迫られてしまうこともしばしば。バックミラーを覗けばピタリと後ろに付いて睨みを効かすイカリ車を駆るマスク顔。
“Oh, give me a break…”
おわり

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Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理シェフなどの経験を活かし「食と健康の未来」を追求しながら「食と文化のつながり」を探求する。2018年にニューヨークから日本へ拠点を移す。