連載226 山田順の「週刊:未来地図」 トランプ来日大報道に思うこと (中)   政治も歴史も知らない”オレさま“大統領

笑顔で堂々としていた天皇・皇后の姿に感激

 今回のトランプ来日で、メディアが注目したのは、トランプが新天皇に対してどんな態度を取るかだった。日本式に深くお辞儀をするのは、トランプ流、いやアメリカ流ではない。万が一、トランプが天皇に対して、日本人なら絶対しない態度をとったら、報道に屈してしまう。
 しかし、今回、トランプの態度は立派だった。暴言を繰り返し、品のない振る舞いばかりする男がじつに神妙な顔つきになり、にこやかに迎える天皇・皇后夫妻に対して頭を下げ、明らかに敬意を示していた。
 そのせいか、皇居の屋外で行われた歓迎式典でレッドカーペットの上を歩く2人の姿に、私は感激してしまった。天皇はトランプに積極的に英語で話しかけ、トランプはそれに答えていた。
 天皇・皇后は、じつに堂々としていて、安倍首相のように媚びへつらった様子はいっさい見せなかった。式典会場の上には真っ青な夏空が広がり、会場内には日米の国旗が風にそよめいていた。その後、日米両国の国歌が流れ、トランプは自衛隊儀仗(ぎじょう)隊の栄誉礼を受け、敬礼をした。私は不覚にも、最初にアメリカ国歌が流れた瞬間、涙が出てしまった。アメリカ国歌を聞いて、こんな状態になったことは、娘の大学卒業のとき以来、初めてだった。

雅子さまのほうがメラニア夫人より英語は上手

 天皇夫妻と大統領夫妻の会見は、約15分間、着席して行われた。トランプは「ご即位後の最初の国賓としてお招きいただいたことを光栄に思います」とあいさつし、天皇陛下は「大統領をお迎えできることをうれしく思います」と応じた。
 ただこの会見で気になったのは、メラニア夫人が最初着席するときに足を組んだことだ。雅子さまと話が弾んだといい、雅子さまは得意の英語で対応されたとメディアは伝えたが、それは当然だ。雅子皇后はバイリンガルであり、はっきり言ってスロベニア出身のメラニア夫人より、英語力は上だろう。
 天皇・皇后とも英語を話す。こういう天皇・皇后を持てたことに対して、私は国民として誇りを感じた。トランプは天皇が英語を話すことに驚き、「どこで勉強されたのか」と聞いたという。また、来日前、雅子さまがハーバード出身と聞いて、「それは素晴らしい。(娘婿の)ジャレッドと同じではないか」と言い、会うのを楽しみにしてきたという。しかし、ジャレッド・クシュナーが寄付金を積んで入ったのに対し、雅子さまは実力でハーバードに入り、それも「summa cum laude」(成績トップ卒業生)である。
 これまで、トランプは日本人に対して敬意を見せたことはない。安倍首相は友達気分でいるが、トランプはそう思っていないし、まして敬意など抱いていないのは、その態度から見て明白だ。しかし、天皇・皇后に対しては違った。明らかに敬意を抱いていたように、私には見えた。

日本が日露戦争でロシアに勝ったことを知らない

 今回の来日で、私が驚いたというか、やはりと思ったことが2つある。1つ目は、週刊文春(5月30日号)に載った政府関係者のコメントを使った記事だ。以下、私が驚いた部分を引用する。

《ただ、トランプ氏が詳しいのはあくまでゴルフの歴史、日本の歴史はと言うと−−残念ながら落第点だ。「実はトランプ氏は日露戦争も知らない。以前、首相に『日本はロシアと戦争をやったのか?』と尋ねていたこともありました。日本が勝ったと伝えると、『グレート!』と仰天していたほどです」(首相周辺)
 それだけではない。強固なはずの日米同盟にもかかわらず、安全保障に関する理解も乏しいのだ。

「集団自衛権の行使を容認したとはいえ、基本は専守防衛。ところが、トランプ氏は『俺たちは空母を出している。日本は何を出せるんだ?』と言い出し、『もう少し日本のことをレクしておいてよ』と首相も呆れたほどです。北朝鮮がミサイルを発射したときにも『迎撃できないのか』と迫って、首相を困惑させていました」(官邸関係者)》

 日露戦争を知らなかったとは驚くばかりだが、トランプだけに妙に納得できてしまうから不思議だ。
(つづく)


【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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