連載232 山田順の「週刊:未来地図」よみがえるアメリカ単独支配(中) ローマ帝国の歴史から今後の世界を見る

多民族共生国家だったローマ帝国

 多くの人が誤解しているが、ローマはローマ人がつくったが、ローマ人だけの国ではなかった。ローマの最盛期には、地中海世界から集まった多様な民族が帝国内で活躍し、市民権も持っていた。これは、いまのアメリカに「アメリカ人」と呼べる人々がいないと同様だ。
 古代ギリシャは、ローマと同じように都市国家から発展し、次々に海外の植民地をつくっていったが、植民地人とアテネのギリシャ人との間には厳然たる差別があった。
 アテネは純血性を重んじて、奴隷を解放しても、彼らの身分を外国人のままにした。それに対してローマは、212年アントニヌス勅令で、全属州民にローマ市民権を付与している。
 ローマ帝国内での人々の移動は自由で、職業の選択も自由だった。だから、外国人もローマ市民になれた。ちなみに、ローマ市民になると直接税は免除された。
 ローマの元老院は、3世紀になると、ヒスパニア、ガリア、オリエントなどの出身の人間たちが多くなり、2世紀末の時点で元老院メンバーの3分の1がアフリカ出身だったという。
 ジャック・ル・ゴフの「中世西欧文明」によれば、トラヤノス帝などヒスパニア出身の皇帝は何人もいて、セウェルス朝の時の皇帝たちはアフリカ出身であり、皇妃たちはシリア人であったという。
 これは、アフリカ出身のオバマがアメリカ大統領になったことと同じである。
 つまり、ローマは多民族共生国家だったのであり、この多様性がローマのパワーの源泉だった。

ローマ帝国の属州とそっくりな日本

 ローマ帝国は都市国家の連合体だった。イタリア半島のほとんどがローマと同盟を結んだ同盟市であり、それ以外は「プロヴィンキア」(英語ではprovince)と呼ばれる属州だった。
 ローマは打ち負かした相手には自治権を与え、同盟を結んで、現代世界でいえば「友好国」として処遇した。同盟国は「ローマ軍が侵略しない」という保証を与えられた代わりに、一定の貢物をするとともに、有事にはローマに兵力を提供するなどの義務を負った。
 エジプトやアルメニアが、こうした友好国だったとされる。ただ、同盟国であるか属州であるかは、そのときの状況によって異なっていた。
 属州には多大な税負担が課せられ、その税収によってローマは繁栄した。豊かな属州は元老院が直轄し、辺境にある属州は皇帝が直轄した。ただ、属州といっても、すべてを収奪されたわけではない。キリスト誕生時のイスラエルはローマの属州となっていたが、ヘロデ王は追放されず、王国は存続していた。
 ただし、属州と本土の間には税関があった。そこでは、本土に入る商品に25%の関税が課せられた。
 このように見てくると、日本はどう見てもアメリカの属州である。ローマ本土がいくつかの同盟市の連合体ということは、アメリカが州の連合体、すなわち合衆国であること同じだ。そして、日本はかつてアメリカに戦いを挑んで敗れたが、天皇家は存在を許された。そして、貿易においては常に関税を課せられ、アメリカ国債を大量に買わせられることで、富をアメリカに還流させてきた。
 いま、トランプは同盟国であろうと、多大な関税を課そうとしている。現在のところ、中国は完全な独立国家だが、米中貿易戦争の敗者となるのは確実だから、WTO加盟国として世界市場に組み込まれている限り、いずれ、アメリカの属州になるしかないだろう。
 中国ばかりか、世界中がアメリカの属州になる。これが、いま、世界が向かっている方向であり、今後は「アメリカ単独支配」が強化されるというのが、私の見立てである。
 この点で、「世界は多極化する」などと言っているアナリストや評論家と、私の見方は180度違っている。

中国が発展できたのは日米欧のおかげ

 中国当局は、なぜ自国が発展できたか、歴史に照らしてもっとはっきりと自覚すべきである。中国が発展できた最大の原因は、対外解放政策に転じたことにある。天安門事件により経済制裁を受けたにもかかわらず、日本が天皇訪中を行ったことで、制裁は解除され、鄧小平による経済強化政策が進んだ。
 中国は日米欧の外資を受け入れ、安い労働力を提供することで「世界の工場」の地位を日本から奪った。日米欧の資本は、次々に中国に生産拠点を移転して、儲けることに専心した。
 こうしてできた中国のビジネスモデルは、じつにシンプル。国内でモノを安く生産し、日米欧に輸出する。かつて日本が行った方法だった。
 しかし、こうして国内に資本が蓄積されてくると、中国は、外資から技術を奪い、規制を強化して国有の大企業をつくり、世界市場制覇を目指すようになった。外国企業を買収し、人材を獲得し、軍事力を強化するとともに、「一帯一路」のような政策で、弱小国家を経済支配するようになった。
 こうしたやり方は、パクス・アメリカーナへの挑戦であり、「パクス・チャイナ」をつくることだから、アメリカが反発するのは当然だ。
 元々は自分たちの利益のための中国への資本投下だっただが、それが回り回って自分たちの首を絞めることになった。しかも、中国の国家資本主義は、自由主義経済を破壊する、ルール無視のやり方である。アメリカが看過できるわけがない。
 米中貿易戦争は、トランプの独断専行といった見方がある。しかし、これは、木を見て森を見ないことと同じである。トランプであろうとなかろうと、この戦争は続いていく。よって、大統領が代われば、貿易戦争が緩和されるという論説に惑わされてはいけない。    
(つづく) 

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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