連載254 山田順の「週刊:未来地図」長生きはいいことなのか?(下) センテナリアン(百寿者)の報道と現実のギャップ

長寿遺伝子の発見と老化研究の現在

 最近は、長寿の研究が驚くべきスピードで進んでいる。その結果、長寿を左右する「サーチュイン遺伝子」などの長寿遺伝子がいくつも発見された。
 2000年、マサチューセッツ工科大学教授のレオナルド・ガレンテ氏などのグループが、「サーチュイン」という遺伝子が活発に働くと寿命が延びるという報告を発表してから、長寿研究の潮目が変った。以来、研究者たちは、遺伝子レベルでの老化の研究に没頭するようになった。
 こうしていまでは、老化は自然現象ではなくなった。長寿遺伝子次第で、老化を防げる可能性が出てきたからだ。つまり、老化は病気と同じことになり、「老化を病気のカテゴリーに入れよ」とする意見まで出ている。
 しかし、いまだに人はなぜ老いるのか? なぜ死ぬのか? ということは解明されていない。言われているのは、2つの説。1つ目の説は、ストレスや紫外線などの環境要因によって、細胞内に有害物質が発生し、機能低下が進んで老いるというもの。たとえば、一般にもよく知られている活性酸素によって身体がダメージを受け、老化が発生するという「フリーラジカル説」がこれに当たる。
 もう1つが、遺伝子によって老化や寿命が規定されているとする説。たとえば「プログラム説」では、それぞれの細胞には分裂できる限界がはじめから決められていて、その回数を越えて分裂できないとされている。

長生きは家系的に継承された遺伝子のおかげ
 
 長寿遺伝子の働きの研究と並行して、別のアプローチからも長寿の研究は行われてきた。それは、長生きを達成した人々、つまり、センテナリアンを徹底して調査するという研究だ。
 これまでの人類の最長寿者(ギネス認定)は、ジャンヌ・カルマンさんというフランス人女性(1875~1997年)で、122歳164日まで生きた。世界には、いま、推計で約120万人のセンテナリアンがいるといわれ、これは人口1万人に対して1.62人という割合だ。
 センテナリアンの上、110歳以上の長寿者をスーパーセンテナリアン(百十寿者)と呼ぶが、これまで記録上で確認されているスーパーセンテナリアンは43人で、そのうち42人が女性となっている。前記したように、日本のセンテナリアンは88%が女性だ。
 となると、長寿が遺伝子によるなら、それは女性に継承されていくという仮説が成り立つ。

 「TIAL」(Total Immediately Ancestral Longevity)」という、長寿指数がある。これは、両親(父母)と4人の祖父母の(合計6人の)寿命を合計した数値で、人類最長寿者のジャンヌ・カルマンさんはTIALが477歳(平均79.5歳)で、家系的に長寿だった。
 また、有名な人物では、アルベルト・アインシュタイン(76歳で死去)のTIALは390歳(平均65歳)、チャールズ・ダーウィン(73歳で死去)のTIALは378歳(平均63歳)で、みなTIALが高い。
 となると、長寿は遺伝するということになり、メディアが好んで特集する「長生きの秘訣」は、食べ物や健康法などの生活スタイルに着目しているので、ほとんど無駄ということにならないだろうか。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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