連載285 山田順の「週刊:未来地図」  ニッポンの貧困、アメリカの貧困(第二部・完)メディアが取り上げない深刻化する日本の貧困

高齢者の9割が「下流老人」に転落

 2015年に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」という本がベストセラーになった。この本により、下流老人が「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」を指すことになり、その数の多さに世間は改めて衝撃を受けた。
 この本の著者、ソーシャルワーカーの藤田孝典氏は、「日経ビジネス」の記事「〈高齢者の貧困率9割〉時代へ」(2019年8月6日)のなかで、今後は誰もが下流老人に転落する可能性があるとして、次のように述べている。

 「老後には、病気や介護、認知症、子供が独立せずに家に居つくなど、現役時代には想像できないような“落とし穴”があります。なかなか実感として受け止めにくいので、危機意識が低いのではないでしょうか。
 現在、私は埼玉を中心に生活困窮者の相談に乗っていますが、半分は高齢者です。そのうち、現役時代の年収が800万~1000万円だった人も含まれています。以前は正規の仕事に就く子供がおり、手元には、貯金や持ち家があった。地域コミュニティーも支えてくれた。年金はあくまでプラスアルファの収入で、依存度はそれほど高くなかった」
 
 しかし、いまは違い、「社会構造が変わるなかで、年金依存度は飛躍的に高まっています」と言うのだ。
 現在、安倍内閣は「人生100年時代」を掲げ、一生働き続ける生き方を提唱している。要するに、お金がなければ死ぬまで働いて暮らせということだ。しかし、高齢者が働ける仕事がどれほどあるというのだろう。
 団塊世代が全員75歳以上の「後期高齢者」となる「2025年問題」は目前に迫り、「貧困高齢者予備軍」が今後爆発的に増加するのは間違いない。

おざなりな警告による「啓蒙報道」ばかり

 このように見てくると、日本社会はいま、あらゆる面で貧困化が進んでいると考えられる。子どもの貧困と高齢者の貧困が大きくクローズアップされているが、現役世代が貧しくなったから、その影響が子どもや高齢者に及んでいるのだ。つまり、日本人は全世代にわたって貧困化している。
 しかし、主流メディアこの問題を追求し、社会を変革しようという姿勢を示さない。それは、現政権への批判につながるので、忖度して控えているのだろう。
 その結果、日本の景気は悪くなく、人々は安倍政権の下で安定した暮らしを得られているというムードになっている。しかし、それは完全なフィクションだ。
 それでも、一部メディアは、たまに日本の貧困について報道する。ただ、その報道姿勢は「このまま貧困を放置すれば、日本は衰退していく」「日本の治安は悪化し、犯罪が横行する諸外国のようになってしまう」など、おざなりな警告による「啓蒙報道」にすぎない。
 そこで、次回は、日本の貧困のリアルな現実を、もっと突っ込んで描くことにする。
(第二部・了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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