連載350 山田順の「週刊:未来地図」検証「コロナウイルスは人工的につくられた」 (第二部・下)

「人工説」「生物兵器説」が立ち消えた理由

 こうして、新型コロナウイルス人工説は、ほぼたち消えになった。一時まことしやかに言われた「生物兵器説」は、モンタニエ博士の騒動後は、完全に葬り去られた。
 その理由は、このウイルスにとって敵も味方もないからだ。敵も味方もなく、ヒトなら誰にでも感染する。しかも、治療法がない。治療法がなければ味方も死んでしまうから、そんなものが兵器になるわけがない。
 生物医療科学の研究・教育機関「Scripps Research Institute」(スクリプス研究所)のグループが、科学誌「Nature Medicine」(ネイチャー・メディシン)に発表した論文が、人工説、生物兵器説を否定するための決め手になった。新型コロナウイルスの表面にあるスパイク状のたんぱく質を調べたところ、ヒトの細胞などに入り込むのに最適な設計とは言えなかった。もし、ウイルスを人工的につくるとしたら計算して最適な条件を求める。それがないのだから、人工説は成り立たない。また、人工的につくるとしたら既存のウイルスの構造をもとに手を加えていくが、新型コロナウイルスの構造はかけ離れていたと言うのである。
 極端な陰謀論によると、中国人民解放軍は、生物戦争を無血戦争の最上位に位置付け、生物兵器の開発を進めてきた。その兵器とは、「脳のコントロールを可能とする生物兵器」「特定の民族への遺伝的な攻撃ができる生物兵器」だと言う。しかし、新型コロナウイルスは、このどちらにも当たらない。
 こうして、最終的に、新型コロナウイルスは自然界由来ということがほぼ確定したと言っていい。

武漢で行われた「世界軍人オリンピック」

 しかし、新型コロナウイルスの発生源が、武漢の海鮮市場と特定できる証拠はない。そのため、武漢ウイルス研究所で保管されていたウイルスがなんらかの理由で流出してしまったという見方は、いまも消え去っていない。
 この見方だと、中国は人為的なミスで、ウイルスを流出させたことになる。よって、中国はこのミスを隠したい。そのため、趙立堅報道官は「ウイルスはアメリカ軍が武漢に持ち込んだものかもしれない」とツイートし、意図的に自国の責任を回避し、アメリカに濡れ衣を着せようとしたと言うのだ。
 とはいえ、ウイルスのアメリカ軍持ち込み説がまったくのつくり話かと言えば、そうではない。
 新型コロナウイルスによる肺炎患者が出る前、2019年10月18日から、武漢で「世界軍人オリンピック」が開催されていたからだ。この催しは、1995年9月にローマで第1回大会が開かれてから4年ごとに開かれ、武漢大会は第7回目。世界109カ国・地域から約9300人の軍人が参加し、アメリカからも369人が参加していた。
 なんと、そのうちの5人が感染症にかかり、武漢の病院で治療を受けていたのである。
 武漢の共産党機関紙「長江日報」は11月7日、アメリカ軍人2人が病院を退院した様子を写真付きで報道している。趙立堅報道官の「アメリカ軍持ち込み説」には、このような背景があったのだ。

武漢で行われた「世界軍人オリンピック」

  こうなると、米中のどちらの言い分が正しいかは、結局、藪の中ということになり、真相は永遠に究明されない可能性がある。
 というのは、米中ともに、秘密裏に細菌・生物兵器の研究をしており、お互いにウイルスの研究施設を持ち、数多くのウイルスを保管しているからだ。つまり、確定的な情報を明かしてしまえば、手の内を知られることになってしまう。そんなことをするはずがない。
 4月14日、世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」は、18歳以上のアメリカ人に、ウイルスの起源に関しての アンケート調査を行った結果を公表した。それによると、43%が「自然発生した」と答えたが、23%が「意図的につくられた」、6%が「偶然つくられた」と答え、計29%が人工説を信じていた。なんと、アメリカ人の約3割が、新型コロナウイルスは人工的につくられたと信じているのだ。
 人工説の信者は、若い世代ほど多く、党派別では共和党支持者が37%で、民主党支持者の21%を上回っていた。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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