連載352 山田順の「週刊:未来地図」 「集団免疫」はコロナに打ち勝つ最終手段なのか?(中)

「免疫パスポート」の発行で社会復帰
 抗体検査はすでに、ドイツ、アメリカなど各国で実施され、ニューヨーク州では検査数7500人のうち約14.9%で抗体が確認された。日本でもいくつかの医療機関が実施し、検査数は少ないものの、おしなべて10%ほどで抗体が確認されている。
 抗体というのは、ウイルスに対して「免疫」(immunity)ができたという証拠である。免疫ができれば再び感染することはないとされるので、抗体検査は非常に重要な意味を持つ。なぜなら、抗体保持者は社会活動が可能になるからだ。そのため、抗体検査をして免疫獲得が確認された者には「免疫パスポート」を発行しようという試みが進んでいる。
 免疫パスポート保持者は、自由に外出できる。職場復帰もできるし、遊びにも行ける。そうして、社会に免疫獲得者が増えると、「集団免疫」(herdimmunity)が成立する。

人口の6〜7割の感染で「集団免疫」獲得
 集団免疫とは、ある社会集団の一定数が免疫を獲得することで、感染拡大が収束するという理論だ。一定数とされているのが、集団の6〜7割。つまり、ある一国において、人口の6〜7割の人が感染すれば、感染拡大は収束する。たくさんの免疫獲得者がウイルスをブロックし、感染を止めてくれるからだ。
 1人の感染者が新たに何人に感染させるかという「基本再生産数」という指標がある。これまでの新型コロナウイルスのデータでは、基本再生産数を2.5程度とした場合、集団人口の少なくとも6〜7割が免疫を獲得する必要があるという。
 免疫を獲得するには、二つの方法がある。一つは自然感染、もう一つがワクチンだ。「毒を持って毒を制す」という言葉があるが、ワクチンというのは、ウイルスを薄めて毒性をできる限りなくしたものと考えられる。ウイルスに感染したのと同じようにして、体に抗体をつくらせ、ウイルスに対する免疫を獲得させるのだ。
 だからこそ、ワクチンの開発が急がれているが、いまのところ、いつ完成し、いつから接種が始められるのか、まったくわからない。すべてが推測の域を出ない。WHOなどは「12〜18カ月」と言っている。

ワクチン開発の「ワープ・スピード作戦」
 4月30日、NIAID(国立アレルギー・感染症研究所)のアンソニー・ファウチ所長は、「NBC」の『Today Show』のインタビューで、突如、「2021年1月までに数億本のワクチンを供給できる」と述べた。数億本ならば、アメリカの全人口がカバーできる。そんな膨大なワクチンの量産が、まだ臨床試験に入ったばかりの段階なのに可能なのか?

 この報道を知って、私はかなりびっくりした。
 そこで確認すると、ファウチ氏は、政府内にワクチン開発を迅速化する「ワープ・スピード作戦」(Operation Warp Speed) というものがあることを明らかにしていた。この作戦により、企業は、ワクチンの生産体制の整備に必要な資金を確保できるというのだ。
 「(臨床試験を進めるなかで)ワクチンが有効かどうかの答えが出る前に、リスクを冒して企業と生産体制の増強を始める」
 こう述べるファウチ氏の表情は、自信たっぷりに見えた。ファウチ氏は、なにか確信できるデータを持っているのだろうか。
 そう思っていたら、この後、トランプ大統領も「FOXニュース」(5月3日)に出演し、ワープ・スピード作戦について述べ、「年末までにワクチンが手に入ると大きな自信を持っている」と語った。
 ワクチンが正式に認可されるまでには、通常、6段階のステップが必要とされる。その6段階とは、「探索段階」「前臨床」「臨床開発」、規制当局による「審査・承認」、そして「製造」「品質管理」だ。
 WHOによると、2020年5月時点で、世界では70種類のワクチンが開発中であり、どれもまだ「前臨床」段階だという。
 となると、アメリカは何段階かすっ飛ばして、実用化を急いでいるのだろう。非常に危ない挑戦だ。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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