連載410 山田順の「週刊:未来地図」米中覇権戦争と日本(3) アメリカは本当に日本を守ってくれるのか?(下)

尖閣「日中戦争」にアメリカは介入せず

 ヨシハラ博士の論文には、中国が尖閣諸島を奪取する具体的なシナリオも記されていた。その内容を、「現代ビジネス」でジャーナリストの時任兼作氏が『中国が沖縄を潰し、尖閣諸島を奪る、米国「ヤバい論文」の中身』という記事でまとめているので、それを以下引用する。

(1)海上保安庁の船が尖閣諸島海域に侵入する中国海警局の船を銃撃し、その後、中国海軍が日本側を攻撃

(2)尖閣諸島海域は戦争状態に。中国空母などが宮古海峡を通過し、日本側が追跡

(3)日本の早期警戒機と戦闘機が東シナ海の上空をパトロールするが、中国軍がそれらを撃墜

(4)自衛隊が民間と共用する那覇空港を中国が巡航ミサイルで攻撃

(5)米国が日米安保条約に基づく協力要請を拒否。米大統領は中国への経済制裁に留まる

(6)宮古海峡の西側で短期的かつ致命的な軍事衝突が勃発

(7)米軍は依然として介入せず、米軍の偵察機が嘉手納基地に戻る。中国軍は米軍が介入しないことを確認

(8)中国が4日以内に尖閣諸島に上陸

 こうなると、まさに「日中戦争」だが、ここでのポイントは、アメリカが介入しないということだ。となると、このような軍事衝突が起こらなければ、アメリカはまったく介入しないだろう。

 たとえば、中国側がわざと漁船を座礁させる。そして、負傷者の救護という名目で公船を送り込む。その数は尋常ではなく、中国海軍の艦船までが動員され、尖閣諸島は周囲を取り囲まれてしまう。こうなると、日本側は島に上陸することはおろか接近さえ不可能になる。

 そこで、日本政府はアメリカに日米安保を適用し、中国艦船の強行排除を要請するが、アメリカは応じない。これを見た中国は、建設資材の投入を開始し、南シナ海で行ったのと同じように、基地建設、居住地建設を始める。

 どうだろうか? いかに尖閣諸島がいま危ういかわかるだろう。

オバマもポンペオも尖閣諸島の名を挙げた

 もちろん、まさか中国はそこまでしないだろうという見方がある。しかし、そのような希望的な見方では、安全も平和も保証されない。しかも、ここでも問題は、中国がなにをしてくるかではなく、アメリカが日本を助けるかどうかだ。

 前記したように、これまでアメリカは尖閣諸島には日米安保が適用されるとしてきた。2014年に来日して広島を訪問したバラク・オバマ前大統領も、これを明言した。日米首脳会談で、「日本の施政下にある領土は、尖閣諸島も含め日米安全保障の適用対象になる」と、わざわざ尖閣の名前を出して、安倍首相に応えたのである。

 マイク・ポンペオ国務長官も、7月23日の「中国共産党打倒演説」(事実上の宣戦布告)の前の7月8日の記者会見で、尖閣諸島の名前を挙げている。ここでは、ヒマラヤ山脈、ベトナムの排他的水域、尖閣諸島を列挙して、中国の拡張主義を批判した。

 つまり、アメリカはインド太平洋における中国の攻勢に対抗する一環として、尖閣諸島も位置付けているのだ。

 とすれば、なぜ、アメリカは尖閣でことが起こっても介入しない、日本を助けないと、シンクタンクや専門家は分析しているのか?

アメリカがするのは「安全保障上の関与」

 それは、前記したように「施政権」という曖昧な概念のせいもあるが、じつは安保条約そのものに起因している。

 安保条約には、「アメリカ軍が日本を侵略する軍に対して武力を行使する」ということは書かれていないのだ。書かれているのは、第1条に「日米共通の危険に対処する」ということだけで、その表現は「安全保証上の関与」(security commitment)となっている。

 とすれば、アメリカは、本格戦争から核戦争になりかねない中国との戦争に参戦するだろうか。リアルポリテックスから言えば、介入はありえないと見るのが当然だ。オバマもポンペオも名前は挙げたが、それは中国牽制のためにだと思ったほうがいい。しかも、介入には議会の承認がいる。アメリカ人のほとんどは尖閣諸島の存在すら知らない。はるか太平洋の彼方の島というより、岩礁であると知ったら、軍事介入など絶対に許さないだろう。

 ここで歴史を振り返ってみても、日本は、日米安保条約が締結された1951年以降、2度も領土を奪われているが、アメリカは日本を助けなかった。1度目は、1953年の韓国の独島義勇守備隊による竹島占領。2度目は1957年のソ連の国境警備隊による、北方領土の歯舞群島にある貝殻島の占領だ。

 当時の安保条約には日本防衛義務が課せられていなかったので仕方ないとは言えるが、2度目は相手がソ連だったことがもっとも大きな理由だろう。(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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