連載611 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(上)

連載611 山田順の「週刊:未来地図」 強まる対中包囲網 「中国切り離し」(デカップリング)は可能なのか?(上)

 

 日本が東京五輪とコロナの感染拡大に気を取られているなか、世界ではバイデン政権が主導する「中国包囲網」が日毎に強化されている。世界のサプライチェーンから、中国を切り離す動き(デカップリング)も進んでいる。
 しかし、一体化したグローバル経済から中国を排除することが、本当に可能なのか? なにより、日本は今後どうすればいいのか? いまこそ真剣に考えるべきだろう。

 

(この記事の初出は8月3日)

国防長官の東南アジア歴訪の意味

 日本では、東京五輪の大報道にかき消され、アメリカのロイド・オースティン国防長官が7月23日からシンガポール、ベトナム、フィリピンの東南アジア3カ国を歴訪したことが、ほとんど取り上げられなかった。

 しかし、米中の「新冷戦=覇権戦争」は、今後の日本を大きく左右する大問題である。日本には、アメリカ側に立って中国と対決していく以外の選択肢はない。しかし、菅政権も経済界も、まだはっきりとした意思表示をしていない。

 今回のオースティン歴訪は、ASEAN諸国に対して中国包囲網の強化を要請することにあった。アメリカとしては、もうこれ以上、中国の拡張を許すことはできない。

 そのため、シンガポールではウン国防相と軍事的連携の強化に合意し、シンガポールが導入する最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の訓練をアメリカ国内で行うことを確認しあった。ベトナムでは、グエン・スアン・フック国家主席と会談し、越米間の包括的なパートナーシップ促進を確認した。そして、フィリピンでは、ドゥテルテ大統領と会談し、フィリンピンが決めていた「訪問米軍に関する地位協定」(VFA)の破棄を撤回させた。

 こうしてオースティン歴訪は成功裡に終わったが、その後、ホワイトハウスは驚くべき発表を行った。8月中に、カーマラ・ハリス副大統領がシンガポールとベトナムを訪問するというのだ。

 アメリカの副大統領がベトナムを訪問するのは、今回が初めて。アメリカの対中包囲網形成は、本気も本気と見て間違いない。

「クアッド」によって中国に対抗する

 バイデン政権の対中戦略は、「柔軟路線」になるとされてきた。しかし、今日までの動きを見ると、まるで逆だ。中国との対決姿勢は強化される一方になっている。

 もはや、アメリカにとって中国は「戦略的な競争相手」などではなく、完全な「敵」と言っていい。そのため、アメリカは日本などの周辺国を巻き込んで、中国の拡張政策を封じ込めようとしている。いわゆる「クアッド」(Quad:日米豪印戦略対話)が、まさにそれだ。

 クアッドは、インド太平洋地域4カ国で安全保障を協議する枠組みで、もともとは日本が口先だけで提唱した。しかし、トランプ前政権が中国と対決姿勢を強めると一気に進展した。そして、バイデン政権となり、今年の3月には初の首脳会議が開かれ、共同声明まで出されることになった。

 当然、中国はこれに反発した。即座に反応し、「クアッドは平和に対する真の脅威だ」と非難し、続いてASEAN諸国にクアッドに協力しないようにという警告メッセージを送った。

 したがって、オースティン国防長官とハリス副大統領のASEAN諸国訪問は、この中国の非難に対する対抗措置とも言える。現在、中国は南シナ海の自国領化の最終段階に入っている。これを許してはならないというのが、現時点でのアメリカの姿勢だ。

 クアッド4カ国に、英国が参加するという話は昨年からずっと伝えられてきた。その象徴とされたのが、英国が空母「クイーン・エリザベス」を中心とする「CSG」(空母打撃群=空母を中心とする艦隊)を、極東地域に派遣すると表明したことだ。いまや、これは現実となった。

 現時点で、クイーン・エリザベス打撃群は南シナ海に展開している。この空母は、いずれ横須賀に寄港することになっている。

(つづく)

 

この続きは9月20日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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