連載649 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (中1)

連載649 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (中1)

 

アメリカでも値上げが始まった

 日本ばかりではない。世界中がインフレに突入している。すでに何度か書いてきたが、アメリカは8月に生産者物価指数(PPI)が、前年同月比8.3%上昇し、2010年11月に統計を取り始めて以来、もっとも高い水準となった。欧州(ユーロ圏)も8月に消費者物価指数(CPI)が、前年同月比で3%の上昇を記録した。

 このように、インフレは世界がコロナ禍から脱出するなかで、経済現象として自然に発生している。それは、需要が回復するなかで、いったん止まった供給が追いつかなくなったからだ。もちろん、世界中が大規模な金融緩和をしたせいもある。

 ただし、欧米のインフレが日本と異なるのは、各国の経済がもともとインフレ基調だったことである。経済成長によるインフレが日常の姿で、人々はモノやサービスの値段が上がることに慣れていた。しかし、日本人は、まったく慣れていない。このままいくと、消費者は悲鳴を上げ、その不満が新政権を直撃するだろう。

 アメリカのインフレを象徴する出来事が、先日、「ウォールストリートジャーナル」(WSJ)で報じられた。アメリカ版ダイソーの「DOLLER TREE」(ダラーツリー)が、製品を1ドルから1.25か1.5ドルに引き上げると発表したことだ。ダラーツリーは1986年にオープンして以来、価格1ドルを守ってきたが、ついに守り切れなくなったのである。

 すでに、100円ショップがあるのは、世界中で日本だけだから、日本の100円ショップもいずれ値上げに追い込まれるだろう。

インフレは来年の春まで改善されない

 すでに述べたように、世界経済がインフレに突入したのは、コロナ禍から回復するなかで、需要が急激に回復したからである。また、異常気象の影響で、世界的な農産物不足が起こったこと、さらに石油や鉱物資源などが不足した影響も大きい。

 これに輪をかけたのが、グローバル経済で構築されたサプライチェーン(供給網)が寸断されたり、混乱したりしたことだ。

 この状況を「ファイナンシャルタイムズ」は、10月1日付の記事で、投資家向けに警告した。この記事は、「もはやこれはスタグフレーションではないか」として、次のように書いていた。

《2021年の市場はずっとインフレ懸念につきまとわれてきた。だが、原油が1バレル80ドル(約8900円)を突破、世界の食料価格は1年前から3割強上昇し、他のコモディティー(商品)も10年来の高値となるなかで、投資家は予想以上に長引くインフレに成長の減速が重なって状況は悪化すると受け止めている》

 そうして、この状況は当分改善されないだろうとし、サプライチェーンの制約が和らぐ兆候はまだ見えないから、来年の春まで続くとしていた。

(つづく)

 

この続きは11月12日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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