連載653 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (完)

連載653 山田順の「週刊:未来地図」 ついにスタグフレーションに突入:貯金、現金の価値低下でなにが起こるのか? (完)

 

売るに売れなくなった日銀の所有株

  おそらく、FRBにしてもECBにしても、株価に関しては、これまでの「金融バブル相場」から、実体経済に即した「企業業績相場」に戻すことを模索している。適切なテンパーリングにより、バブルをソフトランディングさせることを狙っている。

 しかし、日銀はいまのところそんな素振りすらない。ETF(上場投資信託)買いを少なくし、「ステルス・テンパーリング」をしているというが、それは購入額を減らしたということで、売りに転じたわけではない。

 市場経済の原則から行って、中央銀行がETFというリスク資産を買うということはあってはならないことだ。こんなことをやっている中央銀行は、世界にない。株価が8000円台のときに、政府からの圧力でやったのだろうが、これで、日本経済は市場経済ではなくなってしまった。

 そして、いまや株価は3万円前後。もはや売るに売れない。売ったら、暴落の引き金を引く。だから投資家としては、日銀とともにとことん買い続けるという戦略もありかもしれない。とはいえ、日銀は所有株を少しずつでもいいから売らなければ、日本経済は立ち直らない。

ハイパーインフレなら金は本当か?

 インフレ時は、金融資産より実物(現物)資産という常識がある。実物資産には、次の3種類がある。

[貴金属]・金(ゴールド)・銀(シルバー)・ダイヤモンド・プラチナ・宝石・宝飾類など。
[コレクション]・絵画・油画・酒類(ウイスキー、ワインなど)・アンティーク家具・食器、壺、茶器・クラシックカー・ブランドバッグ&服など。
[土地・建物]・土地(市街地、農地・山森)・邸宅・マンション・コンドミニアム・アパートなど。

 このなかで、人々が昔から「真の資産」として信じているのが金(ゴールド)だ。とくに、ハイパーインフレになれば、金がいちばん強いと言われている。実際、コロナ禍になった2020年以降、金価格は上昇している。歴史的に見ても、インフレ時には金の価格は高騰している。
 しかし、日本の場合、金はすべて輸入品であり、いざ売るとなると売れないという難点がある。
 また、金融商品として見た金は、保有しているだけでコストがかかる。金をベースにした投資信託などに投資した場合は、なにもしないと、年々、その価格は下がっていく。

人口減で不動産の下落圧力が止まらない

 スタグフレーションは、悪いインフレと言ってもインフレである以上、不動産価格は当然上がる。ローンを組んだ場合は、ローンもインフレの影響で価値が目減りするので、相対的に不動産の資産価値は上昇する。

 しかし、それはある時点までで、たとえば、賃金上昇が伴わないために、ローン返済が滞り、投げ売り物件が出たりすれば、不動産価格は下落する。

 利回りなど期待の収益物件の場合は、物価高から修繕費、維持費などのコストが上がるうえ、入居者の生活が逼迫することで、家賃に下落圧力がかかる。不景気になるわけだから、当然、不動産取引も減退し、あらゆる物件に下落圧力が働くと見ていいだろう。

 過去に不動産価格が暴落した例は多い。日本のバブル崩壊時もそうだったが、1997年のアジア通貨危機時の韓国では、急激なウォン安、金利上昇が起こり、不動産を手放す向きが急増して、不動産価格は大幅に下落した。

 このような歴史的な経緯に加え、日本で懸念すべきは、人口減少である。人口減少社会では、不動産の買い手が年々減り、物件は余る一方になる。なにしろ、現在の日本では、1年間で約50万人の人口が失われている。地方の県庁所在地の都市が、まるまる1つなくなっている計算になる。

 このような急激な人口減少は、景気動向と関係なく、不動産価格の下落圧力となる。

 

 以上、スタグフレーションの世界を展望してみた。
 私は、投資家ではない。政治経済、国際問題などを扱う、ただの物書きなので、本来、スタグフレーション下での資産防衛などどうでもいい話である。なにより、資産などないからだ。しかし、スタグフレーションの下で、普通の生活が崩壊してしまうのは本当に困る。
 しかし、新内閣も野党も、いまの日本経済に対して、なにも有効な方策を持っていないので、ただただ絶望している。このまま、後進国でもいいから、これ以上は落ち込まないようにと、願うだけだ。

(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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