連載676 なぜ、イーロン・マスクが世界一の金持ちなのか? バブル崩壊はテスラ株の暴落から始まる (完)

連載676 なぜ、イーロン・マスクが世界一の金持ちなのか? バブル崩壊はテスラ株の暴落から始まる (完)

 

GAFAMも「収穫逓減」の壁にぶつかっている

 このように「規模の経済」の制約を受けずに大躍進してきたGAFAMだが、ここにきて、壁にぶつかっている。それは、世界人口には限界があるからだ。
 グーグルにしてもフェイスブックにしても何億、何十億というユーザーを獲得して成長してきたが、世界人口には限界があるので、やがてそこが限界になる。結局、「収穫逓減の法則」の制約を受けるのだ。
 しかし、これまでNY株価を引っ張ってきたのは、間違いなくハイテク株である。GAFAMの株価は、テスラほどではないが、高騰に高騰を続けてきた。
 実際、S&Pの時価総額の約20%をGAFAMの5社が占めているため、「GAFAMの成長が止まればS&P500の上昇も止まる」との指摘がある。
 テスラは完全なバブルだが、「規模の経済」「収穫逓減の法則」から見て、GAFAMもバブルである。個々の違いはあるが、この先の数年で収益が2倍、つまり規模も2倍にならないくらいの成長がなければ、いまの株価は高すぎる。
 それがわかっているのだろう、フェイスブックは社名を変更して「Meta」(メタ)にした。メタバースのヴァーチャル世界は無限だからと考えたのだろうか。しかし、アバターの数は人間の数以上には増えない。

投資家はバブルに乗ることを好む

 このように見てくれば、テーパリングによる金融緩和の終了、インフレ対策のための金利引き上げなどがなくとも、いずれ株価は暴落する。短期的な暴落とはいかなくとも、大きな調整局面がやって来るのは間違いない。株価とともにほかの資産も大きく下落するだろう。
 しかし、投資家は頭でわかっても、その通りに行動しない。
 日経新聞記事『米テスラ株、快走の裏側 異形のバブル支える「権利」』(2021年11月5日)によると、 ITバブル期のヘッジファンドの動きを検証した米プリンストン大学のブルネルマイヤー教授によれば「合理的な投資家はバブルに乗ることを好む」と言う。
 記事はこう書いている。

《テスラ株を裏側で支えるのは、うまくいけばわずかな元手が大きく膨らむデリバティブ(金融派生商品)のオプション取引に熱心な米個人投資家だ。米ダウ・ジョーンズ通信は10月25~27日のテスラ株のオプション売買高は9000億ドル余りと現物株の約5倍に達したと伝えた。
 大半はコールオプション(買う権利)だ。QUICK・ファクトセットによればプットオプション(売る権利)の売買高をコールの売買高で割って算出するプット・コール・レシオは10月25日に0.45と8月末以来の水準に急低下した。
 投資家のコール買いが増えるとコールを投資家に販売するマーケットメーカー(証券会社)がヘッジのため現物株の買い増しに動き、株価が上昇する。株高は空売りの買い戻しや新たなヘッジの現物買いを呼び込み、株価をさらに押し上げる。「ガンマスクイーズ」と呼ばれる現象だ。》

誰もが投げるタイミングを待っている

 ここにきて、3万6000ドル超えたNY株価、一時は3万円を超えた日本の株価も、オミクロンショックで、一時的に暴落した。そして、今週は、オミクロン株の実態がわかるまで様子見といった雰囲気である。
 しかし、オミクロン株は単なる引き金に過ぎず、株価調整の本当の原因は、バブルに対する警戒心、「高所恐怖症」にある。投資家はいつ引くべきか、そのタイミングを見ていると思える。
 もちろん、まだ上昇の余地はある。しかし、それはもういままでの上昇とは違い、上昇幅は10%もいかないだろう。
 しかし、バブル崩壊となればそうはいかない。下落率は30%を超える。
 すでに、11月のヘンッジファンドの収益は大きく揺らいでいる。ロイターなどの報道によると、ヘッジファンド業界の調査会社ピボタルパスの暫定集計によると、11月の運用成績は推定マイナス1.6~2.0%となり、2020年3月以来のマイナス幅となったという。 

バブル崩壊後は暗黒の1930年代の再来か

 株価が暴落して困るのは、投資家も政治家も同じだ。そこで、なんとか時間稼ぎして暴落を先延ばししようとする。そのタイミングが来たら逃げるほかないと思っているが、オミクロン株の出現、雇用統計の悪化などはタイミングではないとして、過小評価を繰り返している。
 こうしてまだまだ、GAFAMもテスラも買われている。
 しかし、確実に景気は悪化している。インフレは止めどなく進行している。世界経済がコロナ禍以前に戻ることは、あと何年もありえない状況だ。
 私は、数多い経済学者、アナリストたちのなかで、野口悠紀雄氏(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問)の論説をもっとも信用している。
 最近の野口氏は、現在の世界は「第2次世界大戦以降、初めて経験する大きな危機に直面している」と言っている。「V字回復があり得るという考えは根拠が薄い」とも言っている。
 それは、おそらく、世界大恐慌に匹敵する危機と思われる。大恐慌以後の暗黒の1930年代が、今後、再来する可能性が高い。

いつ弾けるは予想できないが、必ず弾ける

 私はこのメルマガで、これまで何度もバブル崩壊を警告してきた。
 コロナ禍が始まる前、2020年1月、NY株価が3万ドル目前となったとき、「嫌な予感」がすると書いた(『NY株3万ドル目前で、嫌な予感。株と債券が暴落する「金融バブル崩壊」はあるのか?』)
 その後、2月になり、コロナ感染が中国ばかりか世界で確認されると、NY株価は暴落した。しかし、そこが底で、それ以後、世界中の金融緩和を受けて株価は上昇した。
 この学習があるから、この先も、一時的に大幅下落しても、それは調整でまた上がると信じ込んでいる人間も多い。
 世界に名を知られたヘッジファンドの主催者レイ・ダリオ氏は、2019年11月の時点で、「ミンスキー・モーメントは近い」と、投資家に警告した。
 ミンスキー・モーメントとは、簡単に言えば、バブルが弾けて崩壊に転じる瞬間のことだ。
 エコノミストのハイマン・ ミンスキーが、金融の不安定性を説いた金融循環論のなかで唱えたことで、多くの投資家がこれを警戒してポジションを取っている。
 たとえ景気がよくなっても、債務が増加すれば、過剰な資産形成から、やがて資産価値が下落する局面(バブル崩壊)が必ずやって来る。これが、ミンスキー・モーメントで、2008年のリーマンショックもミンスキー・モーメントだった。
「バブルがいつ弾けるのか、それを予測することは誰にもできない。ただ、バブルは必ず崩壊する」
 とは、ガルブレイスの言葉だ。
 この先、どうするかは、すべて自己判断にかかっている。

(了)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

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