連載692  中国経済の失速が日本を直撃、このままでは私たちの暮らしは窮地に!(下)

連載692  中国経済の失速が日本を直撃、このままでは私たちの暮らしは窮地に!(下)

(この記事の初出は2021年12月21日)

 

少子高齢化に加え「人口減少」が始まった

 これまでの中国の経済成長を支えてきたのは、人口ボーナスである。中国の人口は20世紀半ばから爆発的に増え、それとともに経済は大きく成長した。これは、どの国の経済にも当てはまることだが、中国ほどその恩恵に預かった国はない。
 しかし、すでに中国の人口ボーナス期は終焉を迎えているという見方が強まっている。日本と同じように少子高齢化が進み、人口オーナス期が始まっているというのだ。
 今年の5月に発表された中国の「2020年国勢調査」によると、中国の総人口は14億1178万人で、この10年間で年平均0.53%増えている。しかし、増えたのは65歳以上の高齢者であり、15~64歳の生産年齢人口は9億6776万人とピークの2013年から3800万人も減った。
 生産年齢人口の減少は、一般論として、人手不足を招き、賃金上昇に拍車をかけ、物価上昇を招く。これに、習近平が始めた「第二文革」が加わるのだから、どうなるだろうかは説明するまでもないだろう。
 中国の人口問題で衝撃的なのは、生産年齢人口ばかりか全人口もすでに減少に転じているという調査があることだ。
 この10月1日、中国西安交通大学の研究チームは「現在の出生率が持続する場合、45年後には中国の人口は現在の半分の水準の7億人にまで減少する」という予測を公表した。この予測の根拠になったのが出生率で、政府統計は1.7だが、研究チームは1.3としたのである。
 実際、中国の新生児数は激減しており、「政府が公表している出生率は実態よりも高すぎる」と、専門家の間では常識となっているという。
 アメリカで中国の人口問題を研究しているウイスコンシン大学の易富賢教授は「14.1億人という中国の人口統計は1億人以上水増しされており、実態は12.8億人ほどである。中国では、すでに2018年から人口減少が始まっている」と指摘している。

北京冬季五輪後に大きく減速する可能性

 中国はいま、年明け後すぐに(2月4日~2月20日)開催される冬季五輪の準備に追われている。中国政府は、今回もまた五輪を国威発揚の場と位置づけ、絶対成功を期して国民を動かしている。任期延長を目指す習主席にとっても、失敗は許されない。
 そのため、北京は経済に陰りがでていることを、必死に隠すだろう。
 北京の冬は、悪名高き「PM2.5」(微笑粒子状物質)による大気汚染が深刻化する。コロナでなくとも、街はマスクなしでは歩けないほど汚染がひどく、まともに空気を吸えない。そこで、開催期間中、中国政府は北京周辺の工場の操業をほぼ停止させるという。
 そうしたうえで、中国政府は、中国が誇る最先端ハイテク技術をこれでもかとお披露目する。開会式、閉会式では、CGやデジタルアートが大胆に取り入れら。ドローンも東京五輪以上に飛ばすと見られている。
 また、各会場では、物資の運搬はロボットが担い、食事の配達も無人。無人の掃除ロボット、商品を積んだ車が移動する無人の売店もつくられる。また、選手の移動には、自動運転のシャトルバス、ロボタクシーが使われるという。
 しかし、祭りが大きければ大きいほど、その後の落ち込みは大きい。2008年の北京夏季五輪のときは、前年に14%を超えた経済成長率は開催年と翌年は9%台に落ち込んでいる。この轍を踏むとすると、来年の中国経済はさらに減速する可能性が高い。

中国株式の低迷が世界同時株安を引き起こす

 それでは、中国経済の減速が、世界経済にどんな影響を与えるかを考えてみよう。
 ゴースドマンサックスでは、「共同富裕」政策が次々に導入された場合、年間2兆ドル(230兆円)以上の海外のモノとサービスへの需要がリスクにさらされることになると試算している。
 とくに、不動産税の導入で住宅着工が30%減少すれば、中国の2022年の経済成長率は4ポイント押し下げるという。これにより、中国の建設業界や金属消費に影響を受けやすいチリやオーストラリアなどの貿易相手国は即座に痛みを受ける。
 また、中国内の消費が低迷すれば、中国でクルマを販売する世界中の自動車メーカーが影響を受ける。さらに、中国はいまや世界一のラグジャリー品市場だから、ルイ・ヴィトンなどを手掛けるLVMHなどの痛手は大きい。
 12月20日、上海株式相場は続落した。人民銀行の利下げは投資家心理を上向けさせることはできず、上海総合指数の終値は前週末比38.7619ポイント(1.06%)安の3593.6019となった。香港株式市場も続落。大手ハイテク株や金融株が売られ、約21カ月ぶり安値で終了した。
このようなことが続けば、2015年の世界同時株安のように、中国の株安が世界的に波及する可能性がある。


(つづく)

 

この続きは1月27日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。