連載719  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(中2)

連載719  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(中2)

(この記事の初出は1月25日)

 

アメリカのインフレは39年6カ月ぶりの高率

 昨年、アメリカで始まったインフレは、いまもいっこうに止まる気配がない。労働省が1月12日発表した2021年12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で7.0%となり、1982年6月(7.1%上昇)以来39年6カ月ぶりの高い伸び率となった。
まさに記録的なインフレである。これに耐えかねたメーカーは続々値上げに踏み切った。長らく庶民の味方だった「1ダラーショップ」からは1ドル商品がなくなり、街角の「1ダラーピザ」も看板を降ろさざるをえなくなった。
 アメリカのインフレを加速させているのが、コロナ禍による商品の供給不足と人手不足である。最近では、オミクロン株の感染拡大でエッセンシャルワーカーが続々と休業に追い込まれ、NYのスーパーから商品がなくなったことが報道された。
 すでにFRB(連邦準備制度理事会)は、量的緩和策を終了させるテーパリングの前倒しを決め、今年のうちに3回の利上げを行うことを公表している。しかし、インフレが収まる気配がないため、1月11日の議会のヒアリングでは、パウエル議長がテーパリングをさらに加速させることを議員たちに約束した。
 以降、市場では「利上げは3月開始」と言われるようになった。

欧州が陥った「グリーンフレーション」の罠

 欧州のインフレはアメリカほどではないが、それでも昨年12月のユーロ圏のCPIは前年比で5.0%上昇と過去最高を記録した。 
 ECB(欧州中央銀行)のデギンドス副総裁は、1月13日の声明で、ユーロ圏のインフレ亢進は従来考えていたような一時的なものでなく、2022年のインフレ率は予想を上回るリスクがあると警告した。
欧州のインフレの最大の原因は、石油や天然ガスといった資源エネルギー価格の上昇だ。いわゆる「資源高」であり、それを招いたのはコロナ禍である。
 しかし、欧州の場合、「脱炭素」を急ぎすて、その対応コストが上がったことも一因だ。
 カーボンニュートラルを目指すことで、化石燃料への投資が抑えられた。また、将来を見越して、資源国が石油や石炭の生産を抑制した。さらに、二酸化炭素の排出量の少ないNLG(天然ガス)の需要が高まったことなどが原因となり、エネルギー価格が押し上げられたのである。
 そのため、これを「グリーンフレーション」と呼ぶようになった。

減速し始めた中国経済と習近平リスク

 中国もインフレ亢進の兆しがある。ただ、それ以前に、景気後退が鮮明になってきた。
 北京が進めたゼロコロナ政策の影響は大きく、それに中国恒大集団などの債務問題(不動産バブルの崩壊)も重なり、成長率は大きく落ち込んでいる。年率5%が正常とされたが、2021年は未達、2022年も未達の見通しとなっている。
 中国の経済指標は独特のため、それを読み解くのは難しい。しかし、物価が急上昇しているのは、現地の状況を見れば明らかだ。たとえば、昨年の10月には、醤油が大きく値上がりしている。中国国際金融(CICC)が公表したところによると、2021年のCPIは前年比2%だったという。しかし、中国の知人の声を聞くと、「日用品はみな値上がりしている。2%ではすまない。もっとインフレは進んでいる」とのこと。
 中国は、長い間、世界にデフレを輸出してきた。安価な製品を世界中に提供してきた。その中国製品が値上がりするということは、世界中で物価が上がるということを意味する。
 習近平政権は、「共同富裕」を旗印に社会主義的な政策を強めている。これまでの市場経済路線を転換し、経済の国家統制を強めている。「共同富裕」は、みんなで貧しくなることだから、成長は大きく減速する。それが世界に与える影響は計りしれない。
 しかも、今年の秋には、5年に1度の共産党大会が開催され、そこで、習近平主席の「3期目」続投が決まることが確実視されている。「共同富裕」は継続される。

(つづく)

 

この続きは3月8日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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