連載721  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(下)

連載721  どうなるスタグフレーション:伝統的な方法による生活・資産防衛は可能か?(下)

(この記事の初出は1月25日)

 

ヘッジするための伝統的な3つの方法

 これまで、インフレの常識として、資産は株や不動産、金(ゴールド)など持つということが言われてきた。これらの資産は、伝統的に「インフレに強い資産」とされてきた。単純化すると、次の3つが「インフレに強い資産」である。

(1)株式などの有価証券
(2)不動産や金などの実物(現物)資産
(3)外貨(主にドル)

 この3つの方法は間違ってはいない。しかし、いま世界で起こっているインフレは、過去のどんなときとも違う。コロナ禍と量的緩和が背景にあるからだ。コロナ禍はいずれ収束し、景気は回復に向かう。しかし、量的緩和で大量にバラまかれたマネーは簡単には回収できない。
 しかも、日本の場合は、スタグフレーションである。この状況で、日銀は世界の中央銀行と同じように、テーパリングなどできないのだ。

株価の動きは複雑化し上がるとはかぎらない

 年明けからのNY株式市場は、上がったり下がったりを繰り返している。しかし、全体基調としては、インフレを受けて上がる傾向にある。伝統的なインフレヘッジにしたがえば、株式投資は1つの大きな撰択肢であり、モノみな上がるインフレのなかで株式も上がっていくのは自然なメカニズムだ。
 しかし、現在の株価は金融緩和バブルの影響が大きいから、いくらインフレだとしても、上がり続けるとはかぎらない。
 なぜなら、金融緩和はテーパリングによって引き締めに入り、金利が上昇するからだ。実際、1月18日には、FRBの利上げが早まるという観測が出ただけで、約600ドル下げた。また、それがいつかはわからないが、バブル崩壊という大きなリスクもある。
 そこで、投資家は選択を迫られる。「S&P500」のようなインデックスに長期投資するのは別として、銘柄選択をしなければならない。株価は企業業績を反映するという原則にしたがえば、インフレでもコスト上昇を転嫁できる企業、とくに物価の上昇で利益が膨らむエネルギー企業、モノづくり企業などに投資すべきだろう。
 これまでNY株価を引っ張ってきたGAFAMのようなビッグテック、グリーンバブルに支えられたテスラなどは、この先も上がるかどうかはわからない。とくにテスラのPERが1000倍以上というのは異常だ。
 以上はNY市場の話で、日本株はまったく別だ。これまでは、NY株に連動してきたが、今後はNY市場との連動性が薄れ、インフレによる上昇圧力は消えるだろう。日銀が買い支えなければ、どうなるかわからない。もっともリスクが高い資産となるはずだ。

日本国内での不動産投資はハイリスク

 東京五輪が終わったら下落すると思われていた都心部の高級物件は値上がりしている。新築のタワマン価格も上がっている。しかし、日本全体で見れば、インフレにもかかわらず、不動産を持つのはリスクが大きすぎる。
 人口減で実需がないからだ。人口減少社会では、不動産の買い手は年々減り、物件は余る一方になる。インフレで価格は上昇しても、買い手がいなければ投資した意味がない。
 不動産投資は、利回りを期待してするものだ。しかし、スタグフレーション下では、まず、物件の修繕費、維持費などのコストが上がるうえ、入居者の生活が逼迫することで、家賃に下落圧力がかかる。それなのに、インフレだからと家賃を上げれば、入居者が出ていってしまう可能性がある。そうなると、投資は水の泡だ。
 もちろん、以上は日本国内だけの話で、今後、人口増と経済成長が見込める東南アジア諸国、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどでは、不動産投資によるヘッジが可能だろう。
 アメリカも同様だ。アメリカの住宅不動産価格は、コロナ禍以前から上昇していて、今回のインフレでさらに上昇している。

(つづく)

 

この続きは3月10日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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