連載731  ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(上)

連載731  ウクライナ戦争で情報が氾濫! 注意したい「陰謀論」「フェイクニュース」の罠(上)

(この記事の初出は3月1日)

 ウクライナ戦争は本当に不思議な戦争だ。これまでの戦争と違って、情報が氾濫している。まず、アメリカ政府が、積極的に情報を開示し、「プーチンは侵攻を決断した」などとアナウンスした。さらに、プーチン大統領までも、陰謀論としか思えない理由で侵攻を正当化した。
 また、ネットでは、あらゆる情報が飛び交い、ロシア軍の進軍状況まで手に取るようにわかった。もちろん、フェイクニュースも山ほど流された。
 これだけ、情報が氾濫すると、その処理に戸惑い、どう判断していいのかわからなくなる。陰謀論も横行する。もはや、混乱の極みとしか言いようがない。

 

アメリカの情報開示はなんのためか?

 ロシアのウクライナ侵攻は、じつは既定の事実だったのだろうか? そうとしか思えない、アメリカ政府の情報発信が、開戦前1カ月間にわたって続いた。
ホワイトハウスは、「ロシア軍は侵攻の準備をしている」「プーチンはすでに侵攻を決断した」とまでアナウンスした。極め付けは、バイデン大統領の発言で、なんと北京五輪開催中の2月16日を指定して、「ロシアはこの日に侵攻する可能性がある」とまで言い切った。
 実際のウクライナ侵攻は2月24日だったが、起こってみると、アメリカの情報発信が正しかったことがわかる。しかし、軍事、外交の常識として、掴んでいる情報を明かさないのがセオリーだ。それは手の内を明かすのと同じだから、相手に付け入る隙を与えてしまう。
 そう思うと、バイデン大統領は、プーチン大統領に、「どうぞ侵攻してください」と言っているようなものだった。なぜなら、情報開示以前に、「軍は派遣しない」と宣言していたからだ。
 これは、世界覇権国の大統領としてけっして言ってはいけないことだった。
 このことを考えると、アメリカの正当性や、インテリジェンスの高さを示して、注意を喚起するためだったというのは、後付けの理由としか思えない。
 そのため、「アメリカがわざと挑発した」「戦争を望んだのはアメリカ側」「資源高騰を狙った金融筋のシナリオだ」などいう陰謀論を、即座に否定できない。

これだけあるアメリカのメリット

 たしかに深慮すれば、今回のウクライナ戦争は、アメリカにとってメリットが大きい。このままプーチン大統領がウクライナで失敗してしまえば、そのメリットは計り知れない。
 まず、アフガン撤退の際に失った信用を取り戻すことができる。また、アメリカの軍産複合体を潤すことは間違いない。さらに、いったん停止した北米パイプラインを再開させられるうえ、欧州向けのLNG(液化天然ガス)の輸出を増加させられる。
 本当にこのままロシアが世界から孤立すれば、今年の秋の中間選挙でバイデン民主党は勝てるだろう。
 しかし、はたして高齢のバイデン大統領は、そこまでの戦略家、策士だろうか? とても、そうは思えない。

ウクライナは騙されロシアは罠にはまった

 ただ、次の経緯はあえて記しておかなければならない。
 昨年12月7日、バイデン大統領はプーチン大統領と電話会談を行い、その後に、アメリカ軍をウクライナ国内に派遣してロシアの軍事侵攻を阻むことについて、「検討していない」と否定した。
 それより3カ月前の9月、アメリカはウクライナを加えた15カ国のNATO多国籍軍による大規模軍事演習を実施し、さらに、10月には、ウクライナに対戦車携行ミサイルのシャベリン180基を供与した。今回、ロシア戦車に対して、このシャベリンが大活躍している。
 ここまでやれば、ウクライナはNATOに加盟できると思うし、ロシアは対抗処置としてベラルーシと組んで軍事演習をするのは当然だ。その結果、ロシアは最終的にウクライナ国境に大軍を張り付けた。
 このような経緯だけから見れば、「ロシアは罠に引っかかった」と言えないことはない。もちろん、それ以前から、帝国主義者プーチンの野望は明確だった。

(つづく)

 

この続きは3月24日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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