連載871 底なし円安の先にはハイパーインフレが!? 日本人自身が「資産フライト」(円売り)すれば…(中3)

連載871 底なし円安の先にはハイパーインフレが!? 日本人自身が「資産フライト」(円売り)すれば…(中3)

(この記事の初出は9月13日)

 

すでに日本人の「円売り」は始まっている

 早川氏は、「近い将来にあるとは考えていないんですが」と言ったが、日本人が資産を外貨に換える「資産フライト」=「円売り」は、とっくに始まっている。
 たとえば、株や投資信託に投資する「NISA」で、いまどき、日本株を買う人は大幅に減った。株ならNY株を買っている。預金も円で置いておくのではなく、外貨預金でドルにしている。
 ソニー銀行が7月末に公表した「顧客の外貨預金の利用動向に関する調査」によると、外貨預金は増加の一途をたどっている。そのポイントは、以下の3点だ。
 ・2022年6月は月間売買高が過去最高を記録。月間売買高は2月比で、3月は3.6倍、4月は4.6倍となり、20年ぶりに1米ドル135円をつけた6月は5.8倍に。
 ・米ドル定期預金金利(6カ月もの)は、2月末に比べ、6月末には10倍となり、外貨定期預金全体の購入額は2.6倍に。
 ・2022年6月に売買が多かった人気通貨1位は米ドル、2位はユーロ、3位は豪ドル。売買高に占める米ドルの割合は9割となり、米ドル人気がより伸長。
 外貨預金も、立派な「資産フライト」である。ただし、全預金に占める割はわずかで、まだまだ、一部の人しか外貨預金はしていない。

「これ以上円高にはならない」という確信

 私が『資産フライト』を出版した2011年、円は79円を記録し、史上最高値を付けた。以後、2012年も同レートで推移し、2013年から円安になり97円まで下がった。その後、2014年に105円になると、以後、昨年までの7年間は、105円~110円のレンジで推移してきた。それが、今年、突如として急激な円安となり、現在(9月12日時点)1ドル142円である。
 2011年、円が79円を記録した当時、資産フライトは、富裕層や資産家はもとより、一般のサラリーマン、OLまで広がり、現金をカバンに詰めて香港などに持ち出してドルに換えて預金する人々が出現した。そうして海外に口座をつくり、そこからファンドや不動産などに投資するか、あるいはそのまま預金で持っていた。
 彼らはなぜそんなことをしたのだろうか?
 それは「これ以上円高にはならない」と確信したからだ。日本の国力から見て、こんな円高はおかしい。いずれ円安になるのだから、現時点でドルならドル換えておけば、為替変動で必ず儲かると考えたのだ。
 もう一つ、日本の金融がガラパゴスで国内投資にまったく旨味がないこともあったが、それを説明すると長くなるので、ここでは省く。
 いずれにせよ、こうしたかたちでの資産フライトは、その後、「国外財産調書」の提出の義務化、OECDが策定した「CRS」(共通報告基準)による各国税務当局間の金融口座情報の開示によって“下火”になった。

誰もがさらに円安になると考えている

 とはいえ、私が本に書いた当時の「資産フライト」の目論見は功を奏し、実際、その通りになった。
 1ドル80円のときに1000万円をドルに換えた人間は、12万500ドルを手にした。この12万5000ドルは、現在の1ドル142円で換算すれば1775万円になる。775万円が為替差益で儲かったことになる。
 こうしたことを踏まえて、かつての「資産フライト」を考えると、それは、極端な円高だったからブームになったと言えるだろう。ところが、いまの「資産フライト」は、外貨預金、海外株式投資、海外ファンド投資などが中心とはいえ、こんな極端な円安進行と同時に起こっている。
 いったい、なぜなのだろうか?  
 それは、多くの人間が円はさらに安くなると考えているということだろう。金利差もあるが、金利だけでは円高に振れれば利益は出ない。誰もが「まだ円は下がる」と思うようになったということだろう。


(つづく)

この続きは10月14日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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