連載885 不動産バブル崩壊、食糧危機、習近平続投—- 中国が抱える「3大リスク」とは?(中)

連載885 不動産バブル崩壊、食糧危機、習近平続投—-
中国が抱える「3大リスク」とは?(中)

(この記事の初出は10月4日)

 

中国恒大集団に続き碧桂園控股が危機に

 しかし、習近平が目指してきた「偉大なる漢民族の復活」「中国の夢」は、コロナ禍とアメリカとの対立によって大きく挫折した。中国経済は、昨年は一時的に回復傾向を見せたが、今年は大きく落ち込み、先ごろゴールドマンサックスが公表した今年のGDP成長率の予測はわずか2.8%である。
 中国経済の落ち込みを象徴するのが、不動産バブルの崩壊だ。中国の不動産株の下落が止まらない。昨年の不動産大手、中国恒大集団のドル建て社債のデフォルトに続き、今年は中国最大の不動産デベロッパー、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が危機に陥っている。2022年1~6月期決算で、純利益が前年同期比で96%減となり、株価は暴落して、昨年末比で7割安まで売り込まれた。
 大手がこれなら、中小は押して知るべしで、もはや、中国では不動産開発が成り立たず、不良債権が日毎に増加していく状況になっている。
 先日の日経新聞の記事では、ハーバード大のケネス・ロゴフ教授の見立てを紹介していたが、ロゴフ教授によると、中国では不動産関連の投資が20%減少すると、GDPは5~10%減るという。


中国経済は不動産開発で回ってきた

 一般的に中国人はおカネより、不動産を信じる。彼らは人民元を信じておらず、目の前に実際にある物件のほうがはるかに価値があると思っている。
 統計資料を見ると、中国人の個人資産のうち、不動産はじつに7割以上を占めている。日本人は約6割、アメリカ人は約5割だ。
 中国での不動産投資は、マンションの場合、完成する前に購入者が代金の一部を支払うかたちの「事前販売制」がほとんどである。この資金を、デベロッパーは次の物件建設に回すようになっている。
 ところが、不況になるとこの事前資金が入らず、不動産開発は自転車操業状態になる。これに、コロナ禍によるロックダウンが拍車をかけて、デペロッパーにおカネが回らなくなった。
 こうなると、不動産開発はストップし、住宅ローンを貸し出している金融機関にも影響が及ぶ。
 中国では土地は国のもで、地方政府がその使用権を持っている。したがって、デベロッパーは地方政府から使用権を買って不動産開発をする。つまり、中国では地方政府が「土地転がし」をしているわけで、それで得た資金が税収を上回ることはざらにある。中国経済は、こうした不動産投資によるおカネで成り立っていると言っていい。

 

不動産バブルはなにも残さない不毛バブル

 中国の不動産統計を見ると、今年の1~6月の土地収入は前年同期より31%減り、通年では7年ぶりの前年割れとなると予測されている。
 問題は、中国の不動産開発が、実需に基づいていないことだ。
 中郵証券の推計によると、中国は今後10年間、都市化や結婚などによって年平均約12億平方メートルの民間住宅需要が発生するという。この面積は、ここ10年そう変わっていない。
 ところが、国家統計局の統計を見ると、実際の不動産販売面積は、一貫してこの水準を超え、2021年には約18億平方メートルと6億平方メートルもオーバーしている。つまり、実需に基づかない過剰投資が行われてきたわけで、これはバブルと言うほかない。
 不動産バブルは、不毛なバブルである。弾けてしまえば、不良物件の山となり、なにも残さない。
 たとえば、ITバブルは弾けてもITに関するハイテク技術は残った。また、いくつかのITスタートアップは生き残り、次世代のユニコーン、ビッグテックになった。グーグルやアマゾンは、2000年に弾けたITバブルを生き抜いてビッグテックになった。
 しかし、日本の1980年代の不動産バブルも、2008年のリーマン・ショックも、弾けた後に残ったのは不良債権だけだった。


(つづく)

この続きは11月7日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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