第2回 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問

「給与への影響と、為替の見通し」

Q. 物価上昇に伴い、自分の給料もそれ以上にあがるのでしょうか?

榊原さん:米国の場合、平均賃金の上昇見通しについては比較的に楽観視できるのではないでしょうか。もちろん景気引き締めの結果、リセッションに陥り、短期的に労働需要が弱まる可能性はあります。ただ全体的に労働市場は堅調で、失業率は低く、余剰人員が少ないと思われる環境です。予想外に景気後退が長期化するようなことがなければ、雇用主が給与面で労働力を引き寄せねばならない状況は総じて続くのではないかと思われます。ここは、日本との差が明らかな傾向です。

 ただ、やはり「平均」像には落とし穴があります。特に、技術革新による産業転換が大きく進んでいる現代、さらにVUCAと云われる先行きの見通しにくい経済社会において、勝ち組と負け組の選別が広がる可能性を否定できません。そうすると、平均的には上昇している賃金も、それが自分の業界や会社、職種やポジションに当てはまるとは限らない構図だと言えます。

Q. 円がすごく安くなってしまっていますが、円は日本に残しておいた方がいいですか?USDにして持ってきた方がいいですか?

榊原さん:日本の当局による大規模円買い介入をものともせず、急激な円安が進んでいます。日米の金利差が大きく広がり、この先も日銀が利上げに転じる公算は当面ないと考えられているため、円安傾向が続くとの予想が多いような感じです。年初まで数年の間、1ドル100円から120円の間で推移していた状況において、実は多くの市場参加者が「いつ円高が始まるか」と次の大きな動きを円高と予想する向きがほとんどだったのと対照的になっています。

 今年春頃からの円安進行は、日本のコロナ禍における輸出の停滞と原油価格の上昇などを背景とした経常黒字の縮小または赤字化の展望が主導していたように見えました。しかし、そこから金利差が代わって支配的な要因になっています。しかし、金利差という要素は一見分かり易いようで、必ずしも単純ではありません。金利が高い方の通貨が高くなるというなら、円はずっと下がり続けるしかないのに、過去の推移では円高の局面の方が長いです。金利差の方向性が重要だという指摘もあります。そうであれば、景気を後退させても構わないという意向の米国における積極的な金融引き締めが終盤になれば、その先に金利低下の見通しが広がるでしょう。

 為替レートの先行きを説明するロジックに金利平価説というものがあります。経済学の教科書にも載っている理論です。これは、今起こっていることと真逆のことを示しています。つまり、「金利が高い方の通貨の価値はやがて下がる」ということです。金利の高い新興国の通貨を持っていて、急激に通貨価値が下がり、高い金利で得る利息も結局は帳消しになったというような結果を見聞きしたことがある人も少なくないでしょう。

 世界経済と日本経済を見ている人の一部には、円安の結果として日本でのモノやサービス、そして資産がものすごく安価に感じられるという感覚が広がっているようです。この状況を受けて、日本への旅行者や日本での買い物が早晩再び強い勢いになるという見方が出て来ています。筆者もそうなる可能性が高いように思います。今のドル円レート、あるいは、さらに円安が進むような水準はそう長くは続かないのではないでしょうか。金融関係者の間で、そろそろ円ヘッジ(円高警戒の保険ポジション)を考え始めている投資家が徐々に出て来ている様子もあります。

 もし長く続くようなら、本当に日本は 「screaming buy」。それは、経常黒字の再増加も含め、経済活動に大きな影響が出てくるはずです。目先のドル資金の確保という目的なら別として、長い目で見るのであれば今から円をドルに替えるのがお勧めだというようには思えません。

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
Soleil Global Advisors Japan株式会社の取締役。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。

 

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