連載892 どうなる円安、物価高、賃金安? 「失策」「愚策」続きの岸田内閣と日本経済の行方(完)

連載892 どうなる円安、物価高、賃金安?
「失策」「愚策」続きの岸田内閣と日本経済の行方(完)

(この記事の初出は10月18日)

 

介入資金のドルの調達は米国債売りなのか?

 本稿執筆時点(10月17日)で、円ドルは148.87円である。もうあと1円ちょっとで150円になる。そこで、囁かれているのが、前記したように、「円買い再介入」だ。
 が、ここで大きな疑問がある。日本に前回以上の介入資金、すなわちドルのキャッシュがあるのかということだ。
 たしかに、日本の外貨準備は世界一で、8月末時点において、約1兆2920億ドルがあった。しかし、このうちの約1兆300億ドルは証券(主に米国債)であり、すぐに動かせる預金は約1360億ドルだった。
 この状況で先日の介入が行われたわけだが、9月の外貨準備を見ると、総額は約1兆2380億ドルと減ったものの、預金は約1360億ドルと8月からほとんど変化がなかったのである。
 つまり、先日の円買いの資金は証券を現金化して行なったことになる。当然だが、米国債を売るには、アメリカ当局に承認を求めなければならない。
 となると、2回目の介入をアメリカは承認するだろうか。「為替操作国」に認定している日本の要望を2回も聞くだろうか。

 

外貨準備が減るとなにが起こるか?

 外貨準備というのは、資源に恵まれない日本のような国にとっては、生命線である。それが、貿易赤字でどんどん減っていくと、円安はさらに進む。なにしろ、ドルがなければエネルギーも食料も買えない。
 そこで懸念されるのが、円安が進むと、邦銀のドルの調達コストがかさむことだ。実際、「ジャパンプレミアム」(海外市場で資金調達を行う際に要求される上乗せ分の金利)は上昇している。
 これまでは、一時的にジャパンプレミアムが発生したことはあったが、それが恒常化したことはない。
 しかし、今後はわからない。すでに日本には、自動車産業以外のグローバル大企業がなくなってしまった。日本はいまや、下請けの中小企業とサービス産業の国で、国内需要が中心の国である。
 ドル調達コストの上昇は、国内の物価高に跳ね返る。また、外貨準備の減少は、国際競争力の低下を招き、資源や食料の調達で苦戦することを強いられる。

 

海外旅行が再び「高値の花」になる時代

 円安の先行きを考えると、もっとも懸念されるのは、早くて来年、おそらく2024年にアメリカが金利の引き下げに転じたときにどうなるかだ。
 普通に考えれば、金利差が縮まるのだから、円安からは円高に転じなければならない。しかし、本当にそれが起こるだろうか?
 もし、円高に転じなければ、なにが起こるだろうか?
 すでに、海外旅行は一般国民にとって再び「高値の花」になってしまった。なにしろ、円安で飛行機のチケット代が割高になったうえ、現地での宿泊費、食費もかさむ。
 さらに、チケット代には馬鹿高いサーチャージが加わる。
 先日、JALは2022年12月~23年1月発券分のサーチャージを引き下げると発表したが。欧米行きなどは11月比で1万200円減の片道4万7000円、ハワイ行きは同6900円減の3万500円である。アメリカに行くのに、燃料代だけで往復9万4000円もかかるのだ。
 1980年代になるまで、一般国民にとって海外旅行は、お金を貯めてやっと行けるかどうかの憧れの夢の世界だった。私は、大学時代、必死にバイトしてなんとか夢を実現させた。あの時代に戻るのだ。
 あの時代は、舶来品(洋酒、洋モクをはじめなにもかも)はみな高かった。
 1985年のプラザ合意まで、1ドルは200円以上だったのだから、その時代が来ても驚きはしない。ただ、当時の日本経済はピークであり、いまとはまったく違っていた。
 それがいまや、日本は落ちぶれた経済衰退国であり、国民がこの状況に耐えられるかどうかと考えると、胸が切なくなってくる。

(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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