第2回 ニューヨーク アートローグ

第2回 ニューヨーク アートローグ

アメリカ絵画の巨匠アレックス・カッツ
グッゲンハイム美術館「アレックス・カッツ:ギャザリング」展から(10 月 21日~ 2023 年 2 月 20 日)

Photo: Ariel Ione Williams and Midge Wattles © Solomon R. Guggenheim Foundation, New York.

 

舞台はニューヨーク

最新作品展示室風景
Photo: Ariel Ione Williams and Midge Wattles © Solomon R.
Guggenheim Foundation, New York.

 アレックス・カッツは現代アメリカ絵画を代表するアーティストの一人だ。1927年ブルックリンに生まれてこの方ニューヨーク(ソーホー)を拠点に制作活動を続けている。95歳の現役アーティストだ。カラフルでポップな具象的な絵画。ポートレートや花、風景などを主に描写している。まるでビルボードを思わせる大胆でシンプルな画面だが、一度見たら忘れられないスタイルだ。

 名門大学クーパー・ユニオンやメイン州
スコウヒガン美術校のレジデンスプログラムでアートを学び、1954年にニューヨークの画廊でデビューしてから、これまでホイットニー美術館、メトロポリタン美術館をはじめヨーロッパ、アジアなど世界各地
の主要美術館やギャラリーで途切れなく展覧会が開催されている。

 作品に社会的なメッセージや思想があるなしにかかわらず、単純に人々を魅了し続けている。この夏6月から9月まで、マドリードの三大美術館の一つである国立ティッセン=ボルネミッサ美術館で代表作品40点以上の大作による個展が開催された。長蛇の列を潜り抜けて目にした絵に、その色褪せないアートを再確認させられた。

 さて10月21日から、カッツのホームグラウンド、ニューヨークで久々の大規模な個展が始まった。グッゲンハイム美術館では初めての個展となる。「アレックス・カッツ:ギャザリング」と題された回顧展だ。フランク・ロイド・ライト建築のあの円形ロタ
ンダが下から天井階まで、絵画、油彩スケッチ、コラージュ、版画、そしてカットアウトという切り抜いた作品で埋め尽くされ、圧巻の空間となった。時代を追うように展示構成されており、1940年代の学生時代に描かれたニューヨークの地下鉄に乗る人々
を描いたスケッチから、最新作の抽象的な風景画に至る。

 

カッツ絵画の魅力

アレックス・カッツ「青い傘2」1972 年
リネンに油彩 96 × 144 inches (243.8 × 365.8 cm)
Private collection, New York. © 2022 Alex Katz / Licensed by VAGA at Artists Rights
Society (ARS), New York. Photo: Courtesy private collection.

 展覧会タイトルとなっている「Gathering(ギャザリング)」はカッツが敬愛する詩人ジイムズ・シャイラーの詩「Salute(賛辞)」(1951年)から引用されている。文字通り「集める」という意味で、まさに本展のためカッツの生涯の作品が集められた。ユニークなオープンスペースのステージに、過去にカッツが描写した人々や風景が時空を超えて召喚されている。展示に登場する人物はフランク・オハラ、ロバート・ラウシェンバーグ、ポール・テイラー、アレン・ギンズバーグ、森万里子、ビル・T・ジョーンズ、ジョーン・ジョナスなどなど、ニューヨークでアバンギャルドな美術史を形成してきた、詩人やアーティスト、ダンサー、ミュージシャン、評論家たちだ。それはニューヨークのアートシーンの軌跡と記録のようでもある。またポートレートに一番多く登場しているのが愛妻エイダだ。1958年に結婚して以来1000回以上も描いたという。エイダを60年以上描き続けているのは、個人の人生観と、エイダという被写体がカッツの中でどんなモデルより完璧な図像的中核として機能しているのだろう。

 実際お会いしたエイダ婦人は作品に描写されている通り飾り気のない魅力的な女性で、センスが光り知的で存在感のある人だ。詩人のフランク・オハラが「(彼女は)存在であり、同時に絵画的なスタイルの概念である」と評している。60年前に描写されたエイダは瑞々しく深紅の唇に目を見張る。エイダだけでなく描写される人や花にしてもカッツのアートは正直に見たものが描かれ大都市のライフスタイルを包括するアートはファッショナブルなのだ。

 本展最後の会場では最新作が集められているが、大作ばかりでそのパワーに圧倒される。その中で、後ろ向きの頭部のような抽象的で静かなモノクロームの作品が印象に残った。すっかり白髪で表情もわからないがそこにエイダがいる。シャイナーの詩が絵になった。
―過去は過去、やりたかったことができなくてもそう思ったというだけで十分ではないか?小屋のあるあの草原に咲くクローバーやひな菊、オモトの花を集めて枯れる
前によく見ておこうと思っていた、過去は過去、あらゆる場を讃えるー

Photo by Kouichi Nakazawa

梁瀬 薫(やなせ・かおる)
国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA )美術評論家/ 展覧会プロデューサー 1986年ニューヨーク近代美術館(MOMA)のプロジェクトでNYへ渡る。コンテンポラリーアートを軸に数々のメディアに寄稿。コンサルティング、展覧会企画とプロデュースなど幅広く活動。2007年中村キース・ヘリング美術館の顧問就任。 2015年NY能ソサエティーのバイスプレジデント就任。


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