第3回 教えて、榊原先生!日米生活で気になる経済を専門家に質問

「2023年米国経済の見通し」

Q. 中間選挙の結果を受け、政策の方向性とそれによる米国経済の展望は?バイデン大統領は選挙前の演説で、「共和党の政策はインフレを悪化させる」と発言していましたが、民主党と共和党でインフレへの影響はどのように異なるのでしょう?

榊原さん:バイデン政権には非常に難しい経済政策の舵取りになりそうです。選挙期間中、高インフレ率に直面した米国民が不満を抱き、民主党は上下院ともに過半数を失う見通しの苦しい状況でした。何とか上院で過半数を維持できたのは、トランプ氏への拒否感が若年層を中心に投票行動を取らせた点も寄与したと云われています。いきおい、バイデン政権はトランプ前大統領への不支持に訴えかける政策になるのではないでしょうか。質問にある選挙前の発言は、共和党によるオバマケアやその他家計向けの補助金の廃止、さらには法人減税など大企業寄りの政策が、直接インフレ率を高めるというより、家計にとって負担増につながるという意味での言い方だったと想像できます。

 一方、一般的には大きな政府で財政支出を増やしがちな民主党の政策の方がインフレ的というイメージはあります。民主党は家計の所得や消費をサポートしつつ、インフレを抑制したいという難しい運営を迫られるわけです。しかし、共和党の政策ならインフレ抑制的かと言えば、例えば移民受け入れの厳格化は国内経済活動のコスト上昇という可能性を示すものであったりして、そうとも限らないでしょう。民主党も共和党も、国内の生産活動回帰を支えたい意向からすれば、大差ないのかもしれません。ただ当面は、バイデン政権で出される学生ローン免除や、幼児教育無償化・介護支援費用援助・住宅購入費援助など、家計の購買力を支える政策はインフレ圧力を残しやすいという見方かと思われます。

Q. では、それを踏まえて米国経済見通しのポイントは?

榊原さん:やはりインフレ動向とそれに対応する金融政策が大きなカギを握ると思われます。米国連邦準備制度(FRB)は、インフレ率を目標の2%に収束させるため景気に悪影響が出ても止むを得ないとの考えです。したがって、インフレ圧力が根強ければ、より強い引き締め策の継続が必要となり、深い景気後退となるケースが想定されます。逆に、早期にインフレ率が低下していけば、引き締め策が早めに終了し、景気はソフトランディングできる可能性が高まるでしょう。

 今のところ景気減速の兆候は見られるものの、雇用や消費の需要はまだ比較的しっかりしており、直ぐに引き締めサイクル自体が終了するようには思われません。それでも FRBのパウエル議長が「一段の大幅引き締めで経済を破綻させることはしない」などと言及したことで、インフレ圧力と景気を両睨みした柔軟な金融政策運営がなされるものと考えられます。それにしても、当面は景気減速が広がる必要はあるわけで、その鈍化の度合いと、結果としてインフレ率が和らいでいくことのバランスを見極めるのは難しく、まだ予断を許さない状況。来年の経済見通しは、なかなか簡単ではないですね。

先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
Soleil Global Advisors Japan株式会社の取締役。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わった。

 

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