【タックスリターン特集】専門家インタビュー 佐山真理 米国税理士

 

米国内で収入を得たら、税金の申告は義務です。雇用主が年末調整という形で税を納める日本と 異なり、米国でタックスリターン(確定申告)は個人の責任になるため、早めに手続きを済ませるこ とをお勧めします。タックスリターンの基本情報を専門家の方に伺いました。

「正しい申告書を提出する責任は納税者本人にあります」

Q. 確定申告においての基本情報をお願いします。
 日本の会社員の場合、一部の方を除いて日本で確定申告を提出している方はあまりいないと思いますが、アメリカの場合は総家庭内収入で税金をはじき出しますので、例えばご夫婦が共働きの場合で2人とも会社員の場合であっても、確定申告をする必要があります。これは預金があって預金利子に対して源泉徴収がされていたとしても、改めて確定申告でそれらを計算に組み込み、総家庭内収入から税額を算出する必要があるということです。夫婦でなく単身の場合でも例えば副業などの収入があった場合、各々の収入に対しての税率で源泉徴収がなされていても、それはあくまで仮であり、確定申告で総収入を元に税金を計算するということです。ですので、各々の収入で計算したものよりも、総収入で計算したら税率が上がってしまったということもあります。計算の結果Tax Creditが使えて税額が下がる場合もあります。ですから申告書上で計算してみないとその人が支払うべき税額はわかりません。

Q. どういう人が確定申告の対象者になるのでしょうか。
 アメリカでは毎年翌年の税法が議会で審議され、IRS(米国国税庁)から毎年確定申告に関する取り決めが発表されます。どの方が申告対象者になるかは複雑な決まりがあり、また支払う税金の種類もさまざまです。例えば、個人事業主の方で400ドル以上収入があった場合、確定申告をしなければなりません。その他、非居住者や半分非居住者となる方も、収入の大きさに関わらず確定申告の必要が生じてきます。(ある程度の収入がある人というのは通常申告対象者に含まれますので、アメリカの会社員は大抵申告対象者になります。

Q. 確定申告をするうえで注意する点はありますか。
 アメリカでは正しい申告書を提出する責任は納税者本人にあります。
 続いて、どういうふうに申告をしたらいいか、なにが申告対象なのかといった詳細を調べる責任も納税者本人にあります。IRSの確定申告に関する取り決めをしっかりと読み込んで、申告漏れがないように行わなければなりません。収入が少ない方は、無料のタックスソフトもありますので、それを利用するのも良いでしょう。
 よく、一般の方が間違った方法で確定申告をされてしまう例として、ブログの記事や知人からのアドバイスを参考にすることがあります。これは非常に危険で、IRSや州税務署などの信頼のおける機関の情報を元に作業を進めなければ、古い情報や誤情報をもとにした間違った申告書を提出してしまう可能性があります。次に連邦税法と各州税法の違いについても注意が必要です。これらは連邦税法と州税法、それぞれが独立した異なった法律であるためです。具体的な例をあげると、コネチカット州に住居をかまえ、ニューヨーク州で仕事をされている方、これはコネチカット州とニューヨーク州の州税法を踏まえて申告していかなければなりません。複雑なことがあった場合、不明点があった場合には専門家に依頼するかを検討するのがいいでしょう。自分で調べて作業を進める場合も、IRSや州税務署の法律や情報をきちんと調べて確定申告書の作成をおこなってください。

Q. 申告の方法や申告期限について教えてください。
 申告書の提出方法については、E-Fileというオンラインでの申請、または、場合によっては印刷した書類を郵送での申告になります。個人申告書提出期限は例年4月15日です。2023年はワシントンD.Cが祝日なので、4月18日になります。この申告期日は確定申告書を提出する期限と、税金を納める期限の両方を指します。この期日までに支払うべき税金を全て納める必要があります。しかし確定申告書提出期日については延長申請をすることで10月15日までの延長が可能です。

Q. ペナルティーについて
 アメリカでは脱税は非常に重い罪に問われます。税金の支払い延滞ペナルティーも厳しく、税金の支払い期日を1日でも過ぎてしまうと、ペナルティが発生します。税に関するペナルティについては、延滞金だけでなく日常生活や業務に支障をきたすことまで、様々なものがあります。身近な例としては、ニューヨーク州の場合、未納税が1万ドル以上になってしまうと、ドライバーズライセンスが免停処置になる可能性があります。
 次に、ペナルティーではなく払い過ぎた税金を還付金として受け取れる場合でも期日を過ぎてしまう方が多くいらっしゃいます。これは3年を超えてしまうと還付金を受け取る権利が失効してしまうからです。きちんと期日までに申告すればお金が返ってくるはずなのに、受け取れないのは大変残念なことです。

Q. その他注意する点などはありますか。
 日本とアメリカで事業をされている方、日本で預金を持っている方などは確定申告書とは別にFBAR,Form8938,5471,3520などの定められた書類を提出する可能性があります。これらの書類はたとえ税金がかからない場合でも書類を提出しなければペナルティが課されます。アメリカに居住している方は日本の不動産収入などは日本で確定申告をしていても、アメリカでも申告が必要となります。物によっては片方の国だけで課税されるケースと、両国で課税対象とされるケースがあります。二国間での課税対象収入の申告は複雑なものが多いので注意が必要です。
 最後に、税金をどこにいくら支払うかは国や州によって細かく取り決められています。日本とアメリカの両国でご活躍の方においては、それぞれの国の取り決めを守ってしかるべき手順を踏むことが結果的に節税につながります。

佐山 真理 米国税理士

Enrolled Agent(米国税理士)、The National Tax Practice Institute Fellow. Pro Bono Panelat Low Income Taxpayer Clinic. アメリカ大手会計関連会社でCPA、税理士、弁護士等が作成した確定申告書に対する監査業務を行う。SAYAMA TAX OFFICELLCを設立、アメリカ確定申告書作成、税務相談、国際税務などの税理士業務の他、代理人としてIRSだけでなくNY、CAをはじめとした各州税務署の税務調査交渉業務を行っている。

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