【子どものメンタルヘルス】専門家インタビュー ニューヨーク日本人教育審議会 教育相談室相談員(後編)

ニューヨーク日本人教育審議会 教育相談室相談員(後編)

 

「ストレスの素になっている心の中の嫌な経験や 気持ちを溜め込まずに外に出すことが大切です。」

 

Q. 子どもに家庭内の環境がストレスを与えないようにするために、親が心の健康を保つ、もしくは心の健康状態を測るためのアドバイスをお願いします。

森:ストレス反応には気分的、思考的、行動的、身体的な変化があります。それぞれどのようなものがあるかを理解しておくこと、またストレス対応法の知識を得ておくことがまず大切です。心と体の状態は強く関連しているので、基本的な健康管理(食事、運動、睡眠・休養)にまず気を付けてください。教育相談室のアンケート調査でも、定期的な運動は特に効果が高いと示されています。また無理をして何事も完璧にやろうとせず、まぁいいか、と一時的に自分や周りへの期待値を下げるのも役立ちます。信頼できる人に話を聞いてもらったり、同じ立場にいる人と体験を共有する場を持つことも大切です。オンラインで日本のご家族と繋がるのもよいでしょう。また近年の研究で、Gratitude Journal(感謝の気持ちジャーナル)の効果が報告されています。週に3-4回、一回15分程、感謝の気持ちが芽生えた出来事を書き止めることで心と体の健康が促進され、人間関係も改善されることが実証されています。ジャーナルの代わりに、毎日食卓で家族それぞれが、感謝の気持ちを持った出来ごとを言い合うのでも良いと思います。マインドフルネスも効果があります。2〜3分の瞑想を1日3〜4回、週に4〜5回するだけでも心と体の健康度が上がることが実証されています。

バーンズ:ワークショップをすると、お母さんたちから、自分をケアしても良かったんだと知りました、という感想をいただきます。ご家族のことをいつも一生懸命考えて、ご家族のことで精一杯というお母さんこそ、ご家族のために自分をケアしなければいけません。これはお父さんも同じです。ご自分のことを大事になさっていただくと、それがご家族のためになります。大義名分を手に入れたと思って、セルフケアの時間を取ってください。

森:定期的な息抜きはご家族で個別にされても良いですし、ご夫婦で、あるいは家族全員でされるのも良いでしょう。映画でもゲームでも、みんなで大笑いできるようなアクティビティがお勧めです。子どもが望めば、何か年齢相応のお手伝いをさせて、それができれば褒め、達成感を得られるよう工夫するのもよいでしょう。そうして普段から意識してGood Feeling、良い気分の蓄積を心がけることで、何かあってもすぐにイライラしたりせずに落ち着いていられます。もしも大きな失敗や挫折を経験したときでも、立ち上がり前に進める心の糧となり得ます。

 

Q. コロナ以前の社会生活が戻り始めてからもうすぐ1年が経ちますが、今後子どものメンタルヘルスの観点で、気を付けておくことはどんなことでしょうか?

バーンズ:今の時代は子どもたちがデバイスをたくさん使いますので、スクリーンタイムの増加やゲーム中毒を心配される親御さんがいらっしゃいます。子どもが自分の責任で望ましい行動を判断できるようになることを何年か先のゴールに設定して、今は子どもがそのゴールにたどり着けるように考える力を付けるべく親御さんが導いている段階だ、という意識が大切だと思います。親御さんは忙しくて、どうしても直接的な指示を出してしまいがちなので、意外と我が子に自分で考える機会を与えていないものです。子どもが自分でこうしなきゃ、と思って動いた経験を積み重ねると、言葉かけも少なくて済むようになるので、意識的に一日1回でも2回でも、指示する言葉から、自分で考えるのを促す言葉に変えることで、生活パターンが変わっていくと思います。最初は要領を得ていないお子さんでもそのうち自分で考えるようになりますので、ぜひやっていただきたいです。

森:ストレスは我々の生活につきものです。時に心と体にストレス反応が起こることは誰にでもあります。放置して悪化してしまわないよう早めに対応することが大切です。ストレス対応法には数多くありますが、まずはストレスの素になっている心の中の嫌な経験や気持ちを溜め込まずに外に出すことが大切です。色々な方法がありますが、一番大切なのは、言葉にして信頼できる人に聞いてもらう・受け止めてもらうことです。親子のコミュニケーションを常にオープンにしておけるよう、親御さんの方で心がけることをお勧めします。相談室に来る子どもたちから、親に話しても意味がない、どうせ分かってくれない、という声を聞くことがよくあります。まずは忙しい日常の中、子どもの話をじっくりと聞く時間を意識的、定期的に設けることをお勧めします。その際に、面と向かって話すというよりも、お散歩など何かを一緒にしながらの「ながら話し」のほうが話やすい場合が多いです。親子には世代差もあるし、日本で育った親御さんならアメリカ育ちの子どもとは文化の差もあるし、今はテクノロジーの差もあります。親御さんにはとうてい理解できないようなことをお子さんが言うこともあるでしょう。まずは子どもの話をじっくりと聞きましょう。思春期は特に、自意識が過剰に高まったり、「今、ここ」の状況しか目に入らなかったりしやすいです。そのようなことも頭に置き、子どもの立場に立ち、彼らの目線から理解するようにしてあげましょう。子どもの立場を気に留めずに安易に「あら、そんなに心配しなくても大丈夫よ」などと発言してしまうと、どうせ親は分かってくれない、ということになりかねません。子どもからどんな話が出てきても、一旦は受け止めて共感してあげる。それから、対処を一緒に考えてあげるというコミュニケーションの取り方を、常にオープンにしておくことをお勧めします。 

スクール・サイコロジスト
バーンズ 亀山静子氏
クリニカル・サイコロジスト
森真佐子氏
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