連載988 脱炭素社会、EV時代が来るなら 知っておきたい「リチウム」争奪戦の現状 (完)

連載988 脱炭素社会、EV時代が来るなら
知っておきたい「リチウム」争奪戦の現状 (完)

(この記事の初出は2023年3月14日)

 

ニッケル、コバルトも電池に欠かせない

 リチウムはレアメタルの一つである。レアメタルは、日本語では「希少金属」とされるが、世界共通の定義はない。日本では、とりあえず希少とされる非鉄金属31種をレアメタルとしている。
 リチウム以外でEV生産に重要とされるレアメタルは、ニッケル、コバルトで、この2つはリチウムイオン電池には不可欠である。そこで以下、この2つのレアメタルについて現状を概観してみたい。
 ニッケルは、「USGS」(米国地質調査所)が2022年1月に発表した鉱物資源の報告書によると、世界の埋蔵量は9500万トン。その半分が、オーストラリアとインドネシア2カ国にある。生産量で見ると、世界の生産量は251万トンで、国別だと、インドネシアが77万1000トンと最大。次いで、フィリピンが33万4000トン、ロシアが28万3000トンで第3位となっている。
 次にコバルトだが、全世界のコバルト埋蔵量は765万トン。第1位はコンゴ民主共和国の350万トンで、ほぼ半分を占めている。生産量で見ると、1位はコンゴ民主共和国の10万トン、2位はロシアの6300トン。続いてオーストラリア、カナダ、キューバとなっている。
 ただし、精錬後のコバルト地金の生産量では、中国が世界の6割以上を占めている。

レアメタルで大きいロシア・中国の存在

 このように、ニッケルとコバルトも、生産国は偏っている。とくにこの2つのレアメタルで存在が大きいのは、ロシアと中国である。
 イオンリチウム電池に利用されるニッケルは、高純度が要求され、その主要生産国はロシアなのである。埋蔵量でも生産量でも世界1位でこそないロシアだが、純度99.8%以上の高純度ニッケル生産では、ロシア企業が世界シェア約2割を占めているのだ。
 これは、ウクライナ戦争が起こったために大問題なのだが、日本では騒がれていない。
 コバルトに関しても、ロシアが世界第2位の生産国であるという点も見過ごせない。ただし、生産量ではコンゴ民主共和国が圧倒しており、そこでの生産が、採掘場での児童労働問題、坑夫によるレイプ問題などを引き起こしていることは、もっと見過ごせない。
 これを容認し、鉱石を大量輸入して精錬しているのが中国である。
 つまり、ウクライナ戦争、米中冷戦で、中ロが手を組むことは、レアメタルの供給が中ロ側に握られることを意味する。これは、日本と欧米西側諸国にとっては最悪の展開と言わざるをえない。

レアメタル備蓄とリサイクルの確立

 日本企業も遅ればせながら、ロシア、中国から手を引き、たとえばニッケルに関しては、インドネシア投資を増やしている。また、ほぼ100%海外輸入に頼っていることから転換し、備蓄戦略、リサイクル戦略、新技術開発などが進められている。
 たとえば、備蓄戦略に関しては、国家プロジェクトとして、短期的な供給途絶に備えるため、設定した国内基準消費量にもとづいてレアメタルを備蓄している。これは、国内基準消費量の60日分が目標量となっている。
 要するに、石油備蓄と同じ体制が取られているわけだ。
 また、リサイクルでは、廃棄されるデジタル機器や家電などからレアメタルを回収し、再利用することが行われるようになった。この分野で進んでいるのは、日本重化学工業と本田技研。両社は、リチウムイオン電池の焼却工程を必要としない高度リサイクル法を確立した。また、住友金属は、使用済みのリチウムイオン電池からニッケル・コバルトを回収し、高純度化する技術を開発した。
 しかし、このような努力も、EVそのものに周回遅れ、また再生可能エネルギー転換が進まないなかでは、宝の持ち腐れである。残念ながら、このままでは日本は「EV敗戦」、ひいては「カーボンニュートラル敗戦」に追い込まれるのではないだろうか。


(つづく)

 

この続きは4月25日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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