連載1005 日本の「EV敗戦」濃厚か? 上海モーターショーが示す自動車の未来図 (上)

連載1005 日本の「EV敗戦」濃厚か?
上海モーターショーが示す自動車の未来図 (上)

(この記事の初出は2023年4月25日)

 これまで何度か、日本の自動車産業のEV化の遅れを憂う記事を書いてきたが、とうとう、それが決定的と思えるときが訪れた。上海国際モーターショーである。
 今回は、世界中のEVの新車の披露会となっていて、トヨタをはじめとする日本メーカーも出展しているが、まったく人気がない。中国EVの独壇場という雰囲気だと、現場で取材している記者が伝えてきた。
 いずれ自動車はEVに一本化される。2025年がその最初の転換点とされてきたが、前倒しで訪れそうなムードになってきた。そうなれば、周回遅れの日本の自動車産業は追いつかず、手痛い「EV敗戦」を喫するだろう。

 

いまや中国は世界一の自動車市場

 かつて世界には「3大モーターショー」と呼ばれる自動車の新車モデルのお披露目を中心としたフェスティバルがあった。このフェスティバルに合わせて、世界の自動車メーカーは開発を急ぎ、プレゼン、プロモーションに力を入れてきた。
 その3大モーターショーとは、ドイツの「フランクフルトモーターショー」、デトロイトの「北米国際オートショー」、日本の「東京モーターショー」だった。
 しかし、時代は変わった。いまや、フランクフルト、デトロイト、東京は輝きを失い、中国の2大モーターショー、「北京国際モーターショー」と「上海国際モーターショー」(北京、上海と交互に開催)のほうが、はるかに盛況になった。中国が世界一の自動車市場になったからだ。よって、この市場で売れるか売れないかが、自動車メーカーの業績に大きく影響する。
 今年の上海国際モーターショーは、2023年4月18日から開かれ、現在も開催中である。閉幕は27日で、すでに世界中から大勢の関係者、自動車ファンが訪れ、大盛況だという。なにしろ、昨年まで中国はゼロコロナ政策をやっていて、昨年の北京開催は中止されたからだ。
 すでに多くの報道が出ているが、やはり、最大の注目はEV(BEV、バッテリー電動車)である。今後EV市場がどうなるのかで、世界の自動車産業はガラッと変わっていくからだ。

EVでは日本勢はBYDにかなわない

 今日まで会場で取材に当たっている記者に聞くと、報道通り「完全にEV一色。世界のEVのお披露目会といった雰囲気」だと言う。
「日本もトヨタが2車種、ホンダが3車種などいった具合で、新車を展示していますが、いちばん人気があるのは、やはりBYD(比亜迪汽車)ですね。人だかりが違います。EVは昨年から価格競争に入り、BYDは若者向けの低価格車に力を入れてきていて、これがすごい人気です」
 この記者は、昨年12月のバンコク「タイモーターエクスポ」にも取材に行っており、そのとき、BYDの大攻勢を見て、「これは日本勢、相当まずいですね」と言ってきた。
 タイは新車販売台数のトップ5までみな日本車で、そのシェアは8割を超えている、日本車の「金城湯池」である。もちろん、ダントツはトヨタだが、そのトヨタと同じスペースでBYDがブースをつくり、トヨタ以上の客を集めていたのを見て、彼は驚いたと言う。BYDは、今年から日本でも販売を始めたたが、タイでも同じように販売を始めている。
「タイもやはりEVになりますね。これでは、日本勢は本当にやられますよ」
 今後、EVがどれだけ伸びていくのかはわからない。市場(消費者)次第だからだ。しかし、地球温暖化対策としてクルマの電動化が打ち出され、米欧中で「EV1本化」の流れがつくられている。これは、極めて政治的なものだが、そうなった以上、このまま進んでいくはずだ。
 しかし、この流れに日本だけが乗っていない。トヨタは社長が後退したにもかかわらず、相変わらず「マルチパスウェー」(全方位)と言っている。EVもHEV(ハイブリット車)も PHEV(プラグイン・ハイブリット車)もやる。FCV(燃料電池車)も従来のガソリン車もやると言っている。

(つづく)

 

この続きは5月23日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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