連載1026 食料危機は本当なのか? 食料自給率38%を煽る日本政府の欺瞞 (中1)

連載1026 食料危機は本当なのか?
食料自給率38%を煽る日本政府の欺瞞 (中1)

(この記事の初出は2023年5月30日)

 

世界人口の約4割がまともな食事をとれない

 日本は「失われた30年」を経て、いまや給料も物価も安い「先進転落国」となっている。しかし、そうはいっても、スーパーに行けばあらゆる食品が並べられている。インフレで価格は上がったが、手に入らない食料品はない。そのため、国民に食料危機がやって来るという実感はない。
 ただし、世界を見渡せば、食料は間違いなく危機に瀕している。
 食料価格は2021年に23%上昇し、それまで十数年間続いてきた価格安定期が終わった。そして2022年、2023年とさらに上昇を続けた。2021年まで、長期的な食料消費ニーズを満たすことができない人の数を指す「栄養不足水準」は、ほとんど変化しなかった。ところが、2021年からは上昇の一途となっているのだ。
 国連のWFP(国連世界食糧計画)などの諸機関が合同で発表した『2022年版・世界の食糧安全保障と栄養の現状』によると、2021年現在、飢餓に苦しむ人口は、全世界で7億6800万人(世界の全人口の9.8%)。飢餓は免れているものの十分な食事をとることができない人々は、約23億人もいるとされている。
 じつに、世界人口の約4割の人々が、まともな食事をとれない窮状にあえいでいることになる。
 まさに、食料危機は現実であり、今後も世界人口は増え続けるので、この危機はさらに深刻化する。国連の人口推計では、現在約80億人の世界人口は、2050年には96億人に達し、その後100億人前後で推移していく。

ウクライナ戦争が食糧危機を招いた?

 食料品の高騰の原因について、日本人は、ウクライナ戦争によるものが大きいと思っている。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱やインフレによって食料品価格の高騰が起こり、それにウクライナ戦争が拍車をかけたと思っている。たしかに、この見方に間違いはない。
 ロシアとウクライナは、世界的な小麦輸出国である。「FAO」(国連食料農業機関)によると、ロシア産の小麦の輸出シェアは19%と世界最大で、ウクライナ産の9%と合わせると、全世界の小麦輸出の約3割を占める。これが、ロシアに対する経済制裁と、ロシアのウクライナ戦争で、2022年の夏を待たずに、おおかたストップしてしまった。
 とくにロシアがウクライナの港湾を占拠し、黒海周辺の船舶の航行を阻止したことは、ウクライナ産の小麦を中心とした穀物の海上輸送を不可能にしてしまった。そのため、国連とトルコが仲介に入って、ようやく輸出再開にこぎ着けたが、この間、輸入側のアフリカ諸国などで、食料危機が発生したのは言うまでもない。
 こうしたニュースばかりに接すれば、誰もが、食料危機はウクライナ戦争のせいだと思い込む。しかし、実際はそうではない。もっと大きな原因がある。
 それはウクライナ戦争が起こる前から、農産物の価格が高騰していたからだ。モノが不足すれば価格は高騰する。農産物の価格高騰を招いたのは、農産物の不作であり、それを招いたのは、地球規模で進む温暖化による「気候変動」である。

この続きは6月22日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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