連載1068 マイルドインフレでも生活は破壊される! 秋に顕在化する大不況前に知っておくべきこと (上)

連載1068 マイルドインフレでも生活は破壊される!
秋に顕在化する大不況前に知っておくべきこと (上)

(この記事の初出は2023年8月15日)

 

花火、ロックフェスティバルの大盛況

 夏まったただなか、全国各地で再開された「花火大会」「フェスティバル」などに、大勢の人が繰り出し、物価高にもかかわらず、コロナ禍で停滞していた消費が回復したと経済メディアは伝えている。外国人観光客も戻り、インバウンド消費も回復したと、まるで好景気のような報道ぶりだ。
 それにしても、経済報道は「新語」「トレンド語」が大好きだ。アフターコロナの消費は、それ以前と違って、品物を購入する「モノ」から、旅行や習い事などの「コト」、さらにそのときその場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ「トキ」に移っているという。これを「トキ消費」と言うのだそうだ。
 たしかに、「トキ消費」は盛り上がっている。隅田川花火大会では、過去最多のおよそ103万5000人の観客が訪れて、売店や近隣の商店街にたくさんのカネを落とした。
 千葉市蘇我スポーツ公園で5日間にわたって開かれた「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル2023」は、なんと26万5000人分のチケットが完売した。
 1日券1万5000円、5日間セット券は5万3000円という高額で、観客が当日落とすカネも半端ではない。

「トキ消費」は一時的で継続しない

 この夏のイベントは、そのほとんどがコロナ禍の影響で3年ぶりだから、盛り上がるのも無理はない。とくに、若い世代は3年間も我慢を強いられたのだから、一気に自由を楽しもうと弾ける。いわゆる「リベンジ消費」である。そのスタイルを「トキ消費」と言ったわけだ。
 しかし、「トキ消費」という以上、「いっとき」で終わる可能性が高い。
 それは、ブームが去って沈静化するということはもちろんのこと、「トキ消費」はその分ほかの消費を我慢して消費しているからだ。つまり、景気が回復しての消費ではなく、一過性の消費に過ぎないと言える。
 祭りの後というのは、なぜかわけもなく落ち込むものだ。多くの人は、わびしさに襲われる。これを「祭りのあと症候群」と言っているが、経済も同じだ。大きな経済効果をもたらしたイベントの後は、必ずといっていいほど景気が悪化する。
 それでなくとも現在の日本は不況下にあるから、この夏が過ぎればそれがより鮮明になってくるだろう。

実質賃金15カ月連続の前年割れ

 すでに何度も述べてきたが、日本経済はいまスタグフレーションになっている。インフレによる物価の上昇に賃金の上昇が追いつかない。つまり、懐が日ごとに貧しくなっていくという現象で、インフレよりずっと怖い。
 そのせいか、メディアもアナリストもこの言葉を使わない。
 しかし、統計を見れば、日本経済は2021年の秋から、スタグフレーションに突入したのは間違いない。それまで長い間続いてきたデフレが終わり、物価が上昇に転じた。ところが、物価上昇は賃金の上昇を伴わなかったので、スタグフレーションになってしまったのである。
 実質賃金は低下を続け、国民生活は日ごと苦しくなっている。
 厚労省が発表する「毎月勤労統計調査」によると、物価変動の影響を加味した2023年6月の実質賃金は、前年同月比1.6%減で15カ月連続の前年割れ。5月の0.9%減から下落幅が拡大、賃金は物価上昇にまったく追いつかない状況が続いている。
 いわゆる「額面」と言われる名目賃金(現金給与総額)が2.3%増だったのに対し、実質賃金を計算する際に使う消費者物価指数は3.9%も上昇した。
 6月といえば、前期ボーナスの季節。それなのに実質賃金が1.6%減ということは、ボーナスがなければもっと下がっていることになる。そこで、ボーナス分を引くとなんと2.4%減である。
 これでは、日常的な消費は大きく減退する。


(つづく)

この続きは9月5日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :